巻ノ九十一 消える風その五
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「下手にせぬことじゃ」
「厳しくは」
「うむ、それはわしがするからのう」
「さすれば」
「大助が元服するまでは」
「父上はですな」
「あ奴に厳しくする」
こう言うのだった。
「そして育てていく」
「では」
「その様にな。それでじゃが」
ここで昌幸は話を変えた、今度の話はというと。
「わしも何かな」
「近頃ですか」
「歳を取った」
少し苦笑いになって言った。
「そう思えてきたわ」
「いえ、それはです」
「そう感じるにはじゃな」
「まだ早いかと」
「そう思うがな」
その苦笑いのまま言う。
「どうしてもな」
「そうもですな」
「思えてくるのじゃ」
そうだというのだ。
「秋を感じるわ」
「人生のそれを」
「ここに暫くおるせいかのう」
「そう言われますと」
「困るか」
「はい、父上もです」
「時が来るまでか」
昌幸はわかっていた、幸村がここで何を言うのかを。そのうえで彼の言葉を聞き応えたのである。
「健在であれと」
「そうあるべきです」
「そうなりたいがどうもな」
「近頃ですか」
「秋を感じる」
またこう言ったのだった。
「どうしてもな」
「そうなのですか」
「うむ、古稀になろうとも戦の場に立つつもりだった」
昌幸は実際にこう考えていた、長く生きてそうしてというのだ。
「喜寿になろうともな」
「それでは」
「そうしたい、だから養生もしておるが」
「それでもですか」
「秋を感じてきた、しかしその秋はじゃな」
「はね退けてです」
そうしてとだ、幸村は昌幸に普段より強い声で言った。
「そしてです」
「そのうえでじゃな」
「それがし達と共に」
「戦の場に」
「立ちましょうぞ」
こう言うのだった。
「是非」
「ではこれからもな」
「はい、そうしたことは言われず」
「決してじゃな」
「心を励ましていって下され」
「御主の言う通りじゃな」
昌幸は幸村の言葉にまずは目を閉じた、そうして袖の中で腕を組み考えてそれから幸村に対して述べた。
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