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Element Magic Trinity
その生誕に祝福を
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いなかったっけなあ、なんて、一瞬現実逃避してしまった。その指摘を聞いて以降、この座り方をしている彼女をライアーが直視出来なくなっているから控えてやってほしいのだが。アイツはヘタレだが、健全な十八歳の男子なのである……ってそうじゃなくて。

「そこですぐに周りを思い出して声を押さえるのがアンタらしいわね」
「え、……何で起きてんの?お前確か、一回寝たら朝七時までは確実に起きねえって聞いたんだけど」
「寝ていても人の気配がするとすぐに起きる、っていうのは、聞いた事ないかしら?」
「……あー」

そうだった。彼女は人の気配に恐ろしいほど敏感で、それはいくら熟睡していようが変わらない。そのティアの周りを歩き回っていれば、彼女は確実に目を覚ましてしまうだろう。

「何というか、スイマセン……」
「いいわよ、別に。どちらにせよ寝てなかったし」
「マジかよ」
「眠かったのは事実だけどね。うとうとし始めてた辺りだから」
「何か本当にゴメンナサイ…いや本当に申し訳ねえ……」
「別にいいって言ってるでしょ」

ティアが目を細める。これは「これ以上この話題を引っ張るなら無理にでも黙らせるけど?」の意味だ。長い付き合いを舐めてもらっては困る。ここは一度黙るか話題を変えるに越した事はないのだ。さてどうするかと頭をフル回転させて、どうにか話題を変える。

「そ…そうだ。本ありがとな、あれ全然見つかんなかったんだ」
「…誕生日に物を贈るのは普通でしょう。けどアンタ、武器使わないし」
「まあ剣とか使わねえしなあ…」

頬を掻く。正直包丁とか贈られたらどうしようと思っていたりもしたのだが、彼女から渡された…というよりは突き出されたのは、人気料理家が監修したと話題のつい先日発売したばかりのレシピ本だった。いつだったかに欲しいと言った覚えはあるが、まさかそれを彼女が覚えていたとは思っていなくて。

「ああいうのなら、外さないかなって。予定通りで何よりだわ」

予想通りではなく、予定通り。その言い方が彼女らしくて、思わず小さく吹き出した。

「何よ」
「いや…らしいなあって」
「?…ま、何でもいいけど」

大きく声を上げて笑いたくなる衝動を必死に抑えて、くすくすと小さな笑いに留める。
隣で怪訝そうな顔をしたティアが抱えていた膝を離して真っ直ぐに伸ばして、アルカがひとしきり笑い終えるのを待ってから「それで」と呟いた。

「何物思いに耽ってた訳?」

ああ、それが聞きたかったのか。わざわざ起きて来て声をかけてくるとは珍しいとは思ったが。

「物思いって程の事じゃねえよ。ただちょっと…うん」

少し考える。ちらりと横を見ると、相変わらず真っ直ぐな青い目がこちらを見つめている。あの時もこんな風に目を逸らさずにいたなあ、なんて
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