第58話『逸脱』
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
境界すらも見えない広大な草原に、晴登は立っていた。空は雲一つない快晴であり、照りつける日光が眩しい。
風に吹かれてたなびく草は鮮やかな緑色であり、空もしっかりと青みがある。
普段ならば、この清々しさを満喫するのだが・・・
『俺はまた来ちまったのか』
吹き抜ける風に揺られながら、驚くというか、むしろ呆然として晴登は呟いた。
この不思議な体験をするのも、もう四度目になる。原因や周期は解らない。ただ一つ言えることが、ここは『夢』の中であるということ。
『今回は"晴れ"ってことか』
もう晴登の着眼点は違う所にある。
というのも、毎度天気が違うのがこの夢の特徴なのだ。意味が有るのか無いのか、そこすらも曖昧である。
『変な事が起こる前に、早く出たいな…』
最初と二度目の夢を思い出して、晴登は身震い。もう誰かが奇怪に出てくるのだけは勘弁してほしい。
しかし、晴登はここから出る術を知らない。知らずとも、勝手に出てしまうのだ。
『誰も居ないよな…』
辺りを注意深く見渡すが、晴登以外の人物は見つからない。草丈は低いから、隠れていたとしても見落とす可能性は無いに等しいだろう。
『少し探索してみるか』
戸惑うことがなかったせいか、今回はヤケに滞在時間が長い気がする。だから、今までできなかった取り組みをしようと考えたのだ。
『・・・といっても、歩いたところで景色が変わらないんだよな…』
広がる草原はもはや無限。地平線の先でも景色が変化する兆しはない。体感で数分程度歩いてみると、不思議と疲れは全く出ないが、どうしてもマンネリ化してくる。
『ん…?』
ある変化に晴登は気づいた。自分の影が消えているのだ。
空を見上げると、さっきまで燦々と輝いていた太陽は厚い雲に姿を隠している。
『急に天気が…?』
山の天気は変わりやすいというが、多分その領域を超えている。瞬きをした瞬間に、と言っても過言ではない。
『妙に不吉だな──』
ガサッ
『っ!?』
背後から人の気配がした。
──さっきまで誰も居なかったのに。
一体誰だ…?!
* * * * * * * * * *
「──あれ?」
意識が現実へと強制的に引き戻され、晴登は目覚める。
確か今しがた、背後の謎の存在の正体を確かめようと振り返ろうとしたはずだ。
どうやら、今回もまた惜しいタイミングで起きてしまったらしい。
「オチが引っ張られるだけ引っ張られて、こっちとしては不愉快だけどな」
頭を掻きながら、晴登はボヤく。
窓の外を見ると、当然の如く雨が降
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ