暁 〜小説投稿サイト〜
魔王の友を持つ魔王
§1 魔王になった日
[3/7]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
駆け出した。目指す先は自転車だ。運動神経皆無な黎斗では、自転車でも使わない限り勝ちの目などない。車が使えればさらによかったのだが、運転方法など知りはしない。

「ああああああ!!!」

 最後に気合を入れて、黎斗はペダルをこぎ出した。何が何でも、逃げ切って見せる。





「はあっ、はあっ……」

 汗も絶え絶えに、売店からペットボトル飲料を持ってくる。やっていることは犯罪だが、今回は勘弁してもらいたい。生きるか死ぬかの瀬戸際な上おそらくこの店の主も、もう居ない。

「ごめんなさい、だけど絶対生き延びますから」

 独り言のように呟いて店を出る。追いつかれる前に、遠くへ、遠くへ―――
 
「くぅ!?」

 自転車に乗ろうとした瞬間、上から飛び降りてきた鬼に腕を掴まれる。待ち伏せされていたか!

「うああああああああ!!」

 万力の如く締め上げる鬼によって、みしり、と左手が嫌な音を発する。

「「うおおお!!」」

「!?」

 もう駄目か、そう思った。諦めようとした矢先、見知った声が聞こえた気がした。

「……嘘」

「黎斗、逃げろ!!」

 鬼を後ろから羽交い絞めにするのは中学校の担任と親戚の叔父。周囲を取り囲む鬼にも父、母、祖母、叔母、親友、その他多くの黎斗と親しい人々が必死にしがみつく。

「みんな!!」

「俺たちはいいから早く行け!!」

「なんで……って、みんなどうするんですか!?」

「俺達は既に死んでいる。お前だけが生存者なんだ。お前だけでも、生き延びろ―――!」

「で、でも……」

 死んだと思っていた親しい人に会えて、第一声が「俺達は既に死んでいる」だ。黎斗に受け入れられる筈もない。当然黎斗は説得をしようと試みる。

「いいからいけ!! 俺たちの努力を無駄にするな!!」

 言っている傍から、鬼によって殴られて消えゆく叔父の霊。先生が必死に叫びをあげる。

「急げぇえええええ!!」

「うわあああああああああああああああ!!!」

 走り出そうとした刹那、

「残念だけど一回捕まったから終わりだ。あと少しだったのに残念だったな。まぁ人間にしては愉しめたぞ」

 死神が君臨した。

「あ、あぁ……」

 終わりか。終わりなのか。絶望に目の前が真っ暗になっていく。

「三文芝居もなかなかどうして、面白い。だがこれ以上は無粋だ、消えよ」

 美女は手を一振りする。巻き起こる衝撃波が、鬼もろとも人間達を一掃する。

「みんな!!」

 黎斗の悲痛な叫びも、掻き消され、死神と黎斗、場には二人しか残らない。

「残念だったな。とはいえ、とても面白かったぞ。三文芝居の礼も含めて最後にもう一回だけ、
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ