§1 魔王になった日
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駆け出した。目指す先は自転車だ。運動神経皆無な黎斗では、自転車でも使わない限り勝ちの目などない。車が使えればさらによかったのだが、運転方法など知りはしない。
「ああああああ!!!」
最後に気合を入れて、黎斗はペダルをこぎ出した。何が何でも、逃げ切って見せる。
「はあっ、はあっ……」
汗も絶え絶えに、売店からペットボトル飲料を持ってくる。やっていることは犯罪だが、今回は勘弁してもらいたい。生きるか死ぬかの瀬戸際な上おそらくこの店の主も、もう居ない。
「ごめんなさい、だけど絶対生き延びますから」
独り言のように呟いて店を出る。追いつかれる前に、遠くへ、遠くへ―――
「くぅ!?」
自転車に乗ろうとした瞬間、上から飛び降りてきた鬼に腕を掴まれる。待ち伏せされていたか!
「うああああああああ!!」
万力の如く締め上げる鬼によって、みしり、と左手が嫌な音を発する。
「「うおおお!!」」
「!?」
もう駄目か、そう思った。諦めようとした矢先、見知った声が聞こえた気がした。
「……嘘」
「黎斗、逃げろ!!」
鬼を後ろから羽交い絞めにするのは中学校の担任と親戚の叔父。周囲を取り囲む鬼にも父、母、祖母、叔母、親友、その他多くの黎斗と親しい人々が必死にしがみつく。
「みんな!!」
「俺たちはいいから早く行け!!」
「なんで……って、みんなどうするんですか!?」
「俺達は既に死んでいる。お前だけが生存者なんだ。お前だけでも、生き延びろ―――!」
「で、でも……」
死んだと思っていた親しい人に会えて、第一声が「俺達は既に死んでいる」だ。黎斗に受け入れられる筈もない。当然黎斗は説得をしようと試みる。
「いいからいけ!! 俺たちの努力を無駄にするな!!」
言っている傍から、鬼によって殴られて消えゆく叔父の霊。先生が必死に叫びをあげる。
「急げぇえええええ!!」
「うわあああああああああああああああ!!!」
走り出そうとした刹那、
「残念だけど一回捕まったから終わりだ。あと少しだったのに残念だったな。まぁ人間にしては愉しめたぞ」
死神が君臨した。
「あ、あぁ……」
終わりか。終わりなのか。絶望に目の前が真っ暗になっていく。
「三文芝居もなかなかどうして、面白い。だがこれ以上は無粋だ、消えよ」
美女は手を一振りする。巻き起こる衝撃波が、鬼もろとも人間達を一掃する。
「みんな!!」
黎斗の悲痛な叫びも、掻き消され、死神と黎斗、場には二人しか残らない。
「残念だったな。とはいえ、とても面白かったぞ。三文芝居の礼も含めて最後にもう一回だけ、
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