第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
エピローグU:再会への序章
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れまで誰とも会わずに済んだ安住の地が、溺死も圧死も凍死も叶わない海底にあるような心地へと変貌するように感じられた。
「悪いことをしたら牢屋に入れられるってぇ、小さな子供でも知ってますよぉ………あ、でもわたしは自分の意思でここに来たわけなんですけどね〜」
「自分からだと? そんなこと……」
「在り得ない、と言いたいんですよね?」
歯切れの悪いグリムロックの言葉を遮り、ピニオラは端的に要点を提示する。
その後に否定の意味合いを持った言葉を向けられていないことから、ピニオラの発言は的を射たものだったのだろう。ともあれ、ピニオラの得た確証はグリムロックの抱いたそれとほぼ同じ論拠に因るものだ。自身に対する否定的な見解は皮肉ではあるが、事実として過去のピニオラを知る者からすれば、彼女が牢獄に囚われることそれ自体が異常と言えるのだから。
というのも、それはみことと出会う前のピニオラに起因する。まだ《柩の魔女》と揶揄され、その異名の指す通りの禍々しい異常者として正しく機能していた頃を振り返れば誰しもが思い至るだろう。ただ己が享楽の為に面白可笑しく、SAOのシステムや人心を操って他者を死に追い遣った魔女の精神性において、その道徳性において、自らの罪を衛兵NPCに懺悔するなど考えにすら及ぶまい。自らの意思で監獄に至ったピニオラでさえ、こうなるとは露程も思っていなかったのだからそれを何よりの証左とするべきか。
ならば、そんな動機の知れない彼女の不審窮まる行動に、どのような言が待ち受けるか。それは自明の理とも言える。
「ふざけるな! 罪悪感の欠片も持ち合わせていないようなお前がここにいるなんて、あっていい筈がないッ!!」
そう、糾弾だ。
やや語気を荒げたのは平静を失ったが故であるものの、その本質は正鵠を射ていた。
彼でさえそんな《柩の魔女》を頼った経緯はあれ、その点について揚げ足を取るような真似をする意思はないとばかりにピニオラは静聴する。途中に反論も弁明も挟まない。ただ述べ猛る全てを受け止めて、訥々と頷くだけ。というのも、自身の内に《謝意を示す》という感覚がない上に、確たる手段さえ持ち合わせてはいない。
ピニオラの他者との交流はあくまでも計算と予測に基づく。感情を揺さぶり、人心を操作していたことによって為していたこれまでの行いは全てその経験則に則ったものである。故に精神性を問われる場合、具体的に相手の感情に向き合っての応対は極めて脆弱であることを意味する。単純に要点だけを述べるならば《ピニオラはまだ誰かと心から向き合った事がない》のである。いや、彼女の人生において厳密には二人だけ存在するのだが。
更に、グリムロックと向かいの牢に入るという事態はピニオラでさ
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