ターン72 冥府の姫と変幻忍者
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合いをつけ、その上で彼が大切にしていたこの店の一員として掃除をし、空気を入れ替え、こうして毎日店番をしに来ているのだろう。その芯の強さこそが、彼の良き相棒としてこの店を回してきた葵の強さなのだから。
そして、そんな強い彼女のそばにいることで自分を誤魔化し、自分も強くなったかのような錯覚の中に身を置こうとしている自分の弱さに今日も自分が嫌になる。仮に彼女がここにいてくれなければ、明日行こう明日行こうとずるずる引っ張った挙句いつまでも足を運ぶことはなかっただろう。まだ彼のいない日常に割り切れていない自分にとって、この場所に居続けることはあまりにも辛すぎる。
「……?どうかしましたか?」
「あ、ううん。なんでもないよ、って」
「そうは見えませんけどね。少し待っててください、どうせ今日も朝食まだですよね?」
ぼうっと葵の横顔を見たまま立っていたことに気づき、心配そうに覗きこむ彼女に笑いかけてから手近な椅子に座る。肩をすくめて調理場に引っ込んだ彼女が、ややあって3つのお盆を器用に持って戻ってきた。今日のメニューは白米に味噌汁、焼き鮭に浅漬け。日本人の朝食と聞いて何となく誰もがイメージするような、けれど実際にこのメニューを毎日作るのは結構骨が折れるあれだ。
1つを夢想の前に置くと、もう1つの同じメニューが載ったそれを正面の机に置く。最後の1つはなぜか少し離れた机に置き、戻ってきて夢想の正面の席に座る。どちらが先に言いだすでもなくほぼ同時に両手を合わせて「いただきます」と呟いてから箸を取った。葵はこういう時には最初に味噌汁を一口飲んでから他に手を付けるタイプだが、夢想はまず浅漬けから口に運ぶ。今日もその法則に従い一口齧るが、すぐにその目を丸くした。
「美味しい……!だって。葵ちゃん、これもあなたが作ったの?ってさ」
混じりけ無しの本気の発言だったが、どうやら葵にとってはあまり嬉しい発言ではなかったらしい。苦虫を噛み潰したような顔になり、いやいやと言った様子で自分も浅漬けを口に入れる。
「……ええ、確かに、味は、間違いないですね」
その引っかかる物言いに少し首を傾げた後、ふと彼女はあることを思い出した。そういえば前にも、このいつだってハキハキと毒を吐く少女が妙に歯切れの悪くなった時がある。その時も、彼は笑って彼女に付いていったっけ……そこまで思い出したところでまた明後日の方向に飛びそうになった思考をどうにか引き戻し、頭に浮かんだある可能性を確かめる。
「お姉さんかな、だって?」
「……わかりますか」
「前の時と同じ顔してるから、ってさ」
明菜・クラディー。夢想自身はまだ会ったことがないが、葵の姉だという。良くも悪くも規格外な人だという話は目の前の葵にも、そして彼にも聞いていたので彼女も名前だけは知ってい
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