ターン72 冥府の姫と変幻忍者
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河風夢想の朝は早い。もとより眠りの浅い彼女にとって早起きはいつものことだったが、ここ数日はそれがより顕著になっていた。その日も、まだ太陽が昇るか昇らないかというほどの時間にアカデミア女子寮特有の豪奢なベッドの中でぱっちりと目を覚ましていた。
そのまま上半身を起こすとまるで何かを探しているかのように周囲を見回し、ややあって時計を見つめて時間を確認してからため息をついた。
「……はあ」
昨日もまた、彼は帰ってこなかった。今日は、今日こそは、帰ってくるだろうか。それはか細い、何の根拠もないただの希望でしかない。それでも、それだけを頼りにするしかなかった。でもその希望も、ここ数日は維持し続けるのに限界が来ようとしている。それがわかっているからこそ、彼女はもう一度ため息をついた。
2時間後。すっかり出てきた太陽の光を浴びつつ、制服に着替えた彼女は寮を出た。朝食はまだだが、どうせこの時間ならば『彼女』があの場所にいるはずだ。まさか拒否はされないだろうから、そこでご相伴に預かればいい。誰ともすれ違うこともなく―――――当然だ、今はアカデミアも臨時休校で、しかもまだ朝早い時間なのだから―――――がらんとした本校舎に入ると、勝手知ったるある教室への道を辿って行った。案の定、他の教室がすべて電気が切られているのに対し、その場所だけはドア越しに光が漏れている。
ひとつ。ふたつ。軽いノックをすると、どうぞ、と声が聞こえたので扉を開け中に入る。明るい電気の下でエプロン姿の少女がこちらを見て呆れ顔半分、笑顔半分といった表情で軽く手を振るのが見えた。
「いらっしゃいませ、河風先輩。洋菓子店『YOU KNOW』、デュエルアカデミア支店にようこそ。とはいっても今日も開店休業ですから、そう大したものは出せませんよ?」
「おはよう葵ちゃん、ってさ。今日もおじゃまするからね、だって」
洋菓子店、YOU KNOW。かつては遊野清明が学校内でトメさんからもらった材料を使い、実家がケーキ屋であるというスキルをフルに生かし勝手に始めた小遣い稼ぎだったものを、何をどうアカデミア側にねじ込んだのか2年の初めに使わない教室を丸々借りることに成功し、万丈目グループとのコネまで使い冷蔵庫付きの調理場と食事スペースまで完備させて堂々と始まった商売である。裏を返せば、この元教室はレッド寮の彼の部屋以外で最も遊野清明という存在を感じることのできる場所だ。
それもあって彼女は毎日ここに通い、そのたびに葵はそんな彼女をこうして出迎える。おそらく葵も、彼がいつまでも帰ってこないことでダメージを受けているのだろう、そう彼女は分析している。ただいつまでもその傷跡を引きずり、半ば機械的にここにやってくる河風夢想とは違い、葵・クラディーはその現実と自分の心に折り
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