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真田十勇士
巻ノ九十 風魔小太郎その一

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                 巻ノ九十  風魔小太郎
 幸村は由利を呼んで言った。
「箱根まで行くぞ」
「箱根ですか」
「そうじゃ、そこにじゃ」
 こう由利に言うのだった。
「風魔小太郎殿がおられるそうじゃ」
「風魔小太郎殿といいますと」
「そうじゃ、北条家にお仕えしておったな」
「あの方ですか」
「北条家は今では一万石程じゃが」
 関東攻めの後で秀吉の仕置でそうなった、関東の覇者だった北条家も今ではかろうじて大名となっていると言っていい状況だった。
「風魔殿は今はな」
「北条家には」
「暇を出されておる」
「やはりそうですか」
「一万石では多くの家臣は雇えぬ」
 関東の多くを治め二百万石を優に超えていた頃とは違うというのだ。
「だから風魔忍軍も全てな」
「暇を出されたのですか」
「それで風魔はあちこちに散った」
「そういえばです」
 ここで由利は幸村に彼が聞いたことを話した。
「風魔衆は今は江戸で盗みを働いておるとか」
「そういう噂があったな」
「あの話は」
「少なくとも風魔殿は関係ない様じゃ」
「そうなのですか」
「今は箱根におられてな」
 そしてというのだ。
「僅かな者達と共にその奥でな」
「隠棲されていますか」
「そうらしい、小さな集まりをもうけて」
「そうだったのですか」
「風魔も昔のことじゃ」
 もうそうなったというのだ。
「今ではならず者に落ちた者かな」
「そうしてですな」
「世捨て人になっておる」
「北条家が降り十数年で」
「そうなった」
 幸村は由利に世の無常も語った。
「まさにいく川の流れは絶えずじゃな」
「その言葉は」
「方丈記じゃ」
 この書にある言葉だとだ、幸村は由利に学問のことも話した。
「それにある言葉じゃが」
「その言葉の通り」
「天下は常に変わる」
「だから風魔もですか」
「そうなった」 
 北条家の影として働いていた彼等もというのだ。
「最早な」
「かく言う我等もですしな」
「うむ、こうして九度山にいる身で言うのも何じゃな」
「そうなりますな」
「そう思うとお互い同じじゃな」
 幸村はここで笑って述べた。
「そうなるな」
「ですな」
「ははは、流罪になっておる者達と世捨て人どちらがよいかのう」
「罪を得ていないだけ世捨て人の方がよいかと」
「では我等の方が思いな」
「左様ですな」
「まあそれでじゃ」
 自分達の身も笑ったうえでだ、幸村はあらためて言った。
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