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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十話 司令長官
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リング少佐の名前が有ります」
「……」

ヤン准将とワイドボーン准将が視線を合わせました。そしてワイドボーン准将が口を開きました。
「ミューゼル少将は陸戦隊の指揮官に移るということかな」
「さあ、どう考えれば良いのか……」

ミューゼル少将はヴァレンシュタイン准将が天才と評する人物です。イゼルローン要塞攻防戦でもこちらの作戦を見破りました。厄介な相手ですがその彼が陸戦隊の指揮官になる……、こちらとしては悪い話ではありません。

「宇宙艦隊司令長官は誰に決まりましたか?」
「まだ決まりません。どうも揉めているようですな」
「メルカッツ提督ではないのですか」
「ええ」

ヴァレンシュタイン准将とバグダッシュ大佐が話しています。准将はミューゼル少将の処遇よりも次の宇宙艦隊司令長官の方に関心が有るようです。准将が目を閉じて左手で右肩を押さえました。

右肩はイゼルローン要塞で負傷した場所です。あれ以来准将は考え事をする時は目を閉じ、肩を押さえ擦るようになりました。まるで負傷した傷跡に相談するかのようです。

「メルカッツ提督は生粋の武人です、政治的な行動などする人ではない。軍務尚書エーレンベルク元帥、統帥本部総長シュタインホフ元帥にとっても扱い易い相手のはずです」
「他に反対している人が居ると?」
バグダッシュ大佐の問いかけに准将は首を横に振りました。右肩を押さえるのを止め大佐に答えます。

「例えそうであっても軍事に関しては両元帥の意見が重視されます」
「では?」
「……反対しているのはエーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥かもしれません」
意外な言葉です、皆が顔を見合わせました。

「ミュッケンベルガー元帥は威に溢れた司令長官でした。それに比べるとメルカッツ提督は明らかに威が足りない……。艦隊司令官としては有能かもしれない、副司令長官も十分にこなすでしょう、しかし司令長官ではいささか不安が有る……、これは私の想像ですがそう思ったのかもしれません」

“威”というはっきりしないもののために帝国は司令長官を決められずにいる、准将の言う通りならそういう事になります。ワイドボーン准将もヤン准将も曖昧な表情をしています、どう捉えて良いのか分からないのかもしれません。私達の困惑をどう思ったのか、准将は苦笑しながら言葉を続けました。

「同盟にも威に溢れた司令長官が居ましたよ、彼が指揮を執れば必ず勝つと周囲に確信させた……。ブルース・アッシュビー元帥……」
「なるほど、そういう事か……」
バグダッシュ大佐が頷きました。周囲でも頷いている人が何人かいます。

「となると帝国はしばらくの間、司令長官に人を得ず混乱する、そう見て良いのかな?」
「そうなる可能性が有ります」
「チャンスだな、ミューゼル少将は居ら
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