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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第四十話 司令長官
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った。俺は一体何を考えていた?

ミュッケンベルガーが目を開いた、僅かだが潤みを帯びているように見えた。見てはいけない、そう思ってすぐ下を向いた。

「私が愚かであった。あの時、宇宙艦隊司令長官としてグリンメルスハウゼンの遠征軍参加を拒絶すべきであった。それをせぬばかりに大敗を喫し陛下をも苦しめる事になった……」
「……」

「再戦を命じられた時、私は思った。陛下のお優しさに甘えてはならぬと。この身には宇宙艦隊司令長官の、いや帝国軍人たるの資格無し。この一戦にて軍を退くと……」
「閣下……」

オフレッサーの呻くような声が聞こえた。俺ならどうしただろう、グリンメルスハウゼンの同行を拒絶できただろうか、敗戦においてミュッケンベルガーのように己を厳しく律することが出来ただろうか……。また思った、俺は一体何を考えていた?

顔を上げることが出来なかった。何をどう考えて良いのか分からず只々俯いていた。フリードリヒ四世が怠惰な凡人なら俺は何だ? 味方を見殺しにした卑怯な恥知らずではないか。

あの男に犯した罪悪に相応しい死に様をさせてやると思った。ならば俺に相応しい死に様とは何だ? 俺は一体これまで何をしてきたのだ? 自然と手がロケットペンダントを握っていた。

キルヒアイスが居ればと思い、慌てて首を振った。自分で考えるのだ、フリードリヒ四世もミュッケンベルガーも苦しみながら自分で答えを出した。その答えが俺をリューネブルクを生かしている。キルヒアイスに頼るな、キルヒアイスには俺の生き様を見てもらうのだ。そしてその生き様は自分で考えるのだ……。

「閣下、次の宇宙艦隊司令長官は決まりましたか?」
オフレッサーの声が聞こえた。慌てて顔を上げた、一体どのくらい時間が経ったのか……。俺の目の前に首を横に振るミュッケンベルガーの姿が有った。

「残念だが未だ決まらん」
「メルカッツ提督ではいけませんか」
「うむ、副司令長官なら良いが司令長官となるとな、いささか不安が有る」
宇宙艦隊司令長官が決まらない? メルカッツではない? 能力、人望ともにメルカッツ以外に適任者がいるとは思えない。何故だ?

俺の疑問を読み取ったのかもしれない、ミュッケンベルガーが微かに笑みを浮かべながら教えてくれた。
「一個艦隊の指揮なら私よりも上手いだろうな、だが艦隊司令官と宇宙艦隊司令長官は違うのだ」

艦隊司令官と宇宙艦隊司令長官は違う? 当たり前の事ではある、それをあえて言うとはどういう事だ? 考えているとミュッケンベルガーが俺に話しかけてきた。

「卿はあの男をどう思う?」
「は? メルカッツ提督の事でありますか?」
「違うな、エーリッヒ・ヴァレンシュタインの事だ」
思わず顔が強張るのが分かった。

「向こうは卿を天才だと評し
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