第7章 聖戦
第168話 蒼穹が落ちる
[1/10]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
月の明かりにのみ照らし出されたこの部屋。その隙間を夜の静寂と冬の冷気が埋めて居る。
ここをこの宮殿――。今は王太子が暮らす宮殿として機能している小トリアノン宮殿の一室として捉えるのなら、ここは妙に殺風景な部屋だと言わざるを得ない。
そう。確かに天蓋に覆われた寝台や、俺から見るとアンティークに分類される家具……ベッドの横に置かれたサイドテーブル。そして、俺の智慧の源泉。この部屋の印象を決定づけている壁一面を占拠した書棚、その他の調度の類はすべてかなり高価な代物である事が、月の明かりしか存在しない今の時間でも見て取る事は出来るであろう。
しかし、それだけ。仰行な……正直、二十一世紀の日本からやって来たごく一般的な感覚しか持ち得ない俺から見て、ゴテゴテとした、ある意味、過剰なまでの演出は鳴りを潜め、至極シンプルな装飾に抑えられているこの部屋。
もっとも、地球世界では前者をバロック様式と表現するのだと思うのだが、後者……俺の暮らすこの小トリアノン宮殿の様式をロココと表現するのかどうかは分からないのだが。
僅かに意識を逸らした、正にその刹那。
重ねられた彼女の右手に少し力が加えられた瞬間、純白の羽毛布団が沈む。
微かに潤んだ瞳は、俺の瞳を覗き込むように……何かを訴えていた。
右手が俺の左手を。そして、左手は俺の頬にそっと添えられた形。もし、今、彼女が着ているのがホルターネック型のドレスでなければ、僅かに膨らみ掛けた双丘が間違いなく見える。そう言う二人の位置関係。
……やれやれ。地球世界のクリスマスには有希。こちらに戻って来た途端のヴァレンタインにはタバサ。これは素直にリアルが充実していると考えても良いのか、それとも何か余計なモノ。例えば好色一代男の世之介の霊にでも憑りつかれているのか。
現在の状況に対して常に疑問を持ち続ける事は悪くない。そう冷静に考えながらも――
彼女の瞳のその奥深くを見つめながら、小さく首を横に振る俺。そして、
「スマンけど、未だ聞きたい事がある。
さっき、去り際にジョルジュの奴が口にした言葉。蒼穹が落ちる……と言うのはどう言う意味なのか教えて欲しいんやけど。ダメかな?」
まさか、蒼穹が落ちて来るんじゃないかと心配していた杞の国の人々の話などではない、とは思うのだが……。
明らかな逃げの一手。いや、確かに未だ聞かなければならない事が後いくつか有るのは間違いない……のだが。しかし、それだけが今、彼女を押し止めた理由と言う訳でもない。
そもそも、前世の俺が彼女を最初に僧院より救い出したのは、彼女をハーレム要員の一番手に据える為ではなかった。
大きな理由のひとつは、彼女も虚無に魅入られる可能性の高い一人だと考えていたから。
そして、もうひとつの大き
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ