巻ノ八十九 水を知りその七
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「別にな」
「左様ですか」
「わしが自分だけでしておることじゃからな」
だからだというのだ。
「御主達も他の者達もよい」
「酒のことは」
「そうじゃ、酒も過ぎるとな」
毒になるからだというのだ。
「わしは慎んでな」
「時を待たれますか」
「その時をな。しかしな」
「それでもですか」
「来るまでにな」
難しい顔でだ、昌幸は幸村に話した。
「何としても生きる」
「必ず」
「そうじゃ、しかしな」
「人の命はわからぬものですな」
「特に歳を経るとな」
尚更というのだ。
「わからぬ様になる」
「だからこそ」
「わしも気をつけておるのじゃ」
「そうなのですな」
「生きる為にな」
時に備えていた、昌幸も。このことは幸村達と同じであるが備え方が彼等とはまた違っているのだ。
「そうしていくぞ」
「そして時が来れば」
「共にじゃ」
「戦いましょうぞ」
「わしが入れば勝てる」
天下は徳川で固まろうとしている、しかしというのだ。
「豊臣家でもな、今の」
「茶々様もですな」
「大人しくして頂く、実はのう」
ここでだ、昌幸は無念の顔になった。そして嘆息を止めてそのうえで幸村に話した。
「四郎様もな」
「あの方もですな」
「上田にお迎えしていれば」
「織田の軍勢がどれだけ来ようとも」
「お守りすることが出来た」
「自信がおありでしたな」
「そうじゃ、わしが四郎様をお助けしてな」
そのうえでというのだ。
「それが出来たのじゃ」
「そうでしたか」
「しかしな。四郎様は上田に来られずな」
「あの様になってしまわれましたな」
「それが無念に思っておる」
今も尚というのだ。
「わしならば出来たものを」
「四郎様も頷けた筈ですが」
「あの方は信濃と縁深い方であられた」
信玄の四男だが諏訪家の跡を継いでいた、それで信濃との縁が深く周りには信濃の者も多かったのだ。
「それでだったのじゃが」
「やはり武田家のご当主であられ」
「甲斐のことはな」
「どうしてもですな」
「離れられなかった」
「考えてみますと」
「四郎様はどうしても甲斐から離れられなかった」
「それが無理だったのですな」
幸村も言う。
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