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失われし記憶、追憶の日々【精霊使いの剣舞編】
第二十六話「初デート 後編」
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ることで絶大な力を手に入れることができる。それが、精霊兵器テルミヌス・エストだった。


 剣精霊は聖剣などではなく、その真逆。魔剣に属する剣だった。


『そんな……』


 華奢な聖女の手。いつも剣精霊の頭を優しく撫でてくれた指先が、硬質な冷たい結晶へと変わっていく。


 剣精霊は泣き叫ぶように聖女に縋った。


『ごめんなさい、ごめんなさい……! 私は知らなかったのです! 私が、こんな――』


『そんなの、分かってるわ……。何年、あなたの友達やってると、思ってるの……』


『――っ! マスター、あなたは……こうなることが知っていて?』


『ええ……。だから、エストのせいじゃないからね』


 剣精霊の白銀を撫でながら、そう呟く聖女。しかし、気丈に振る舞っているがその声は震え、目には涙が浮かんでいた。当然だ。今まさに死を迎えようとしているのだ。十六歳の少女が素直に死を受け入れるわけがない。


『マスター……』


『さよう、なら……エスト。わたし、の……初めての、とも……だち……』


『ダメ、です……マスター……。いや……ダメ……アレイ、シア……っ』


『初めて、名前……呼んで、くれた……ね。嬉し……い……』


 結晶化が進み、胸元まで精霊鉱石と化した。もう数秒もすれば全身に行き渡るだろう。


「エスト、わたし、ね――」




 ――本当は、聖女になんてなりたくなかったよ……。




 聖女――アレイシア・イドリースは一筋の涙を流して精霊鉱石と化した。


 生まれて初めての契約者であり掛け替えのない友達。初めて心を通わせた少女が、透明な結晶と化していくのをただ見つめるしかなかった剣精霊は、この世に生を受けて初めて"悲しみ"というものを知り、涙を流した。


 魔王城に慟哭が響き渡る。


 これが【救世の聖女】と謳われた少女。民衆の希望と期待を背負い、一人孤独に戦ってきたアレイシア・イドリースの生涯だった。


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