第二十六話「初デート 後編」
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条件で受け入れ喜んだ。なぜ剣の精霊が平凡な羊飼いを選んだのか、なぜこんな古ぼけた祠に居たのか、湧くべき疑問の一つも頭をよぎることなく、純粋に女の子のお友達が出来たと喜んだ。少女は天然の上に少々残念な子であったのだ。
剣精霊は言う。自分は太古の時代に起きた戦争のために作られた精霊兵器なのだと。
しかし、辺境の生まれで頭もそこまで良くない少女は彼女の説明を聞き、『普通じゃない精霊なんだね!』とだけ解釈した。
剣精霊は言う。故に自分に感情は不要だと。
しかし、辺境の生まれで同世代の友達がいない少女は『テルミヌス・エストじゃ長いし呼び難いから……そうだ! これからはエストって呼ぶね!』と聞き流した。
彼女のスルースキルに眉一つ動かさない剣精霊――エストは『やめてくださいマスター』と無表情に抗議した。
辺境の名も無き少女が剣精霊と契約したのは瞬く間に国中に広がった。精霊使いの絶対数が少ないこの時代、精霊と契約を結ぶというのはとても珍しくそれだけで大ニュースとなる。
名も無き少女が何百年の間誰も抜くことが出来なかった剣精霊と契約を交わした。その事実に民衆は大いに盛り上がり、いつしか少女を救世主として祭り上げた。精霊使いの血統でない無名の少女というのが物語に登場する英雄譚のようで、民衆受けした要因の一つでもあった。
精霊使いがほとんどいない時代のため、人々は荒ぶる精霊の脅威に晒されていた。荒ぶる精霊は精霊にその身に宿った呪いが原因であるとされている。少女は強大な剣精霊の力を振るい、荒ぶる精霊を次々と鎮め、あるいは討伐していった。当然、人々の賞賛の声が多数上がり、トップアイドル以上の知名度を誇るようになるのもそう遅くはなかった。
そして、いつしか人々は彼女を【救世の聖女】と呼び讃えた。
少女はいつも笑顔であった。苦しい時も辛い時も、決して笑顔が陰ることがなかった。
時には妬まれ、恨まれ、栄誉目的で彼女に迫る者もいたが、少女はいつも能天気な笑顔を見せて、民衆のために剣を振るい続けた。
ある時、剣精霊が少女に尋ねたことがある。
『なぜマスターはいつも笑顔なのですか? なぜマスターは剣を振るい続けるのですか?』
その疑問は剣精霊でなくても誰もが抱くものだろう。しかし、剣精霊自身は純粋な疑問を口にしただけなのだろうが、誰よりも一番近い場所から少女を見てきた彼女の言葉には言いようのない重みがあった。
『ん? だって私しかできないもん。なら頑張るしかないじゃない。それに笑顔でいたほうが元気が湧くでしょ?』
『……私には分かりません。ですが、私はあなたの剣。あなたがそう言うのでしたら私はそれに従いましょう
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