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霊群の杜
猫鬼
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乱暴な話が…!!」
「呪いを裁く法はないだろう?…金を積んで優秀な呪い師を雇ったのだろうねぇ。確かに優秀だ。猫鬼の呪いを使いこなしているのみならず、きじとらが猫の変化であることを突き止め…贄として攫った」
ここからは奉の話だ。
奉は自分に向けられた、まとわりつくような監視の目に気が付いていたという。呪いを生業とするものが絡み始めたことも。そもそも愚かなことではある。祟り神である自分に呪いを向ける事自体…本来ならば。だが。


―――きじとらさんが攫われた時点で、事情が変わった。


それは猫を贄として屠ることで成就する呪い。呪いを成就させるということは、きじとらさんが屠られることを意味する。
ならば、この呪いは決して成就させてはならない。
「…どうすればいい?」
喉がカラカラに乾いているのが分かった。…なんということだ。きじとらさんは贄として、今この瞬間も命の危険に晒されているのか。俺は何も分からず、ただ部屋でやきもきしながら待つしかなかった。
「俺がここに居なければいい」
赤い瞳が、徐々に鮮やかさを失って黒ずんでいく。赤を写し込んで火事場の夕焼けのような色になっていた眼鏡は、静かな煙色に戻りつつあった。
「猫は人ではなく、土地に憑く。そもそも猫鬼ってのは『人』を標的とした呪法じゃないんでねぇ」
古今の化け猫話もそうだろう?猫は人を殺し『居場所』を乗っ取るんだよ。奉はそう呟いて薄く笑った。
「猫鬼じゃ、居場所の分からない人間は呪えないんだよ。だから俺は姿を隠し、再び『あの』病院周辺をうろついた。…気が付いているぞ、きっと掴んでやるぞ、と圧力をかけながら」
「何でだ!?そのまま隠れていればいいだろ!?」
「人を狙った呪法に替えさせ、また俺を狙わせるためよ」
「わざわざ狙わせたのか!?」


「呪ってこなければ、返せないからねぇ」


さぁ…と血の気が引いていく感覚が首の後ろを走った。
「…お前、『呪う』気だな!?」
「もう終わった」
奉が事もなげにそう云ったその時、瞳から完全に赤光が消えていた。
そうか。
何を勘違いしていたんだ俺は。
奉の瞳は、赤光を消しつつあった。俺の前に姿を現したその時から既に、奉の『呪い』は発動していたのだ。
「そんなにしなくても…他にも方法は」
「俺が手段を選ぶ義務があるのかねぇ」
笑っていない目に、口元だけ吊り上げた微笑がその横顔に張り付いていた。その視線の先に俺は……
連なる鳥居の下、青ざめた顔で佇む、きじとらさんを見た。



数日後。
隣町の小さな神社を守る老人が不審な死を遂げた、と地方紙が報じていた。
『全身を強く打ち』などという、交通事故でしか使われないような表現でボカされていたが、その死に様は噂として俺の耳にも入って来た。……嫌でも。

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