猫鬼
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「猫又ってのはよ、結貴…どんな存在だと思う」
不意に問いかけられ、俺は戸惑いながら答えた。
「…長く生きた猫が…妖怪になった…ような?」
「子供のような回答だねぇ…まぁ、それでいい。要は『成った』ようなものだな。歩がと金に、飛車が龍に。それは結局猫の上位互換であり、猫以外の存在ってわけじゃないんだよねぇ」
「何が…云いたい?」
きじとらは『呪』の贄として攫われた。奉はそう低く呟いた。
「は!?」
一方的な否定の言葉が喉まで出かかって、必死に呑み込んだ。
「…だってお前、云ったじゃないかさっき。猫鬼は日本では定着しなかったんだろ…」
「猫は扱いにくいからだ。…だが猫又ではなく『人』になることを望んだあいつなら」
さぞかし、優秀な使い魔となることだろうねぇ…。それこそ、やりようによっては『神』すら屠れるような。そう呟いて、奉は羽織を翻した。
「もう帰るのか?」
階段の暗がりに差し掛かった瞬間、奉が振り向いた。煙色の眼鏡の奥の瞳が、昏い赤色に煌めいていた。背筋を氷が滑り落ちるような悪寒と一緒に、子供の頃の記憶がじわりと滲んだ。
―――奉の瞳が赤色を帯びた日。鴫崎がその呪いを受けた。
「お前…誰に、何をされた!?」
くくく…と喉の奥で笑い、奉は赤い目を伏せた。
「…済んだことだ」
「何!?」
「待っていたんだよ」
もう、眼鏡の奥は見透かせない。俺は小梅の頭を2、3度撫でて、奉を追った。
冬枯れた木立を貫く冷たい石段を踏みしめながら、白い息を漏らす。
全て、灰色だ。枯葉を掃くきじとらさんの姿は、この花が少ない時期に一輪の芍薬のように境内を彩っていたのに。今俺の目の前にあるのはひたすら灰色の石段と、奉の黒い羽織の背中だけだ。…今年の冬は、沈み込むように深い。
「何処に、行ってたんだ」
ふと、2週間の不在について何も答えを得ていないことに気が付いた。
「病院」
羽織の影から滲むような呟きが、白い息と共に漏れた。
「何をしに」
「姿を、現すためよ」
口の端が、僅かに吊り上がった。
「要はな、俺が入院中、病院の中をうろつき回り…『あの部屋』を見つけたことが、知れてしまったんだねぇ」
鎌鼬に斬られて病院に担ぎ込まれた奉は、幾人もの妊婦とその胎児を展示した陰惨な地下室を見つけた。俺も少しだけ垣間見たが…とても直視できるような代物ではなかった。学術的な標本だ、と云えば通る話かも知れないが、産婦人科も擁する大病院の地下に、ホルマリンに漬けられた妊婦が数十体、揺らめいているなど寝覚めの悪い話だ。
しかもその標本達には、後ろ暗い秘密がある。
「そりゃ…知られるのは少しまずいな」
「ああ。噂が流れたらアウトな話だねぇ。…だから『彼』は、俺を消すことにした」
「そ、そんな
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