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霊群の杜
猫鬼
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は、ねこをうめるの!?」
小梅が怒り始めた。どうしようこれ。
「猫鬼のほうは、日本には馴染まなかったがねぇ…これは日本独特の感覚なのかもしれないが、猫は『祟る』。素直で人間想いの犬とは違い、人間の思い通りに使役など出来るものではない。第一」
奉は一旦言葉を切り、ため息と一緒に小さな声で呟いた。
「……猫は、人に懐くものではない」
いやいや、懐くという表現は多分に懐かれる側の主観を含むねぇ…そう云って奉は腕を組みかえた。
「言葉を替えるか…そうだねぇ、猫は使役されることを嫌う」
「だろうね。奴らはお手すら覚えない。要らん悪戯はバリエーション豊富に覚えるくせに」
「そうそう、わがままだわ祟るわ、上手いこと働かないわ。攻撃手段としては機雷みたいなもんだねぇ」
「―――その話は、きじとらさんに関係が、あるのか」
わなわなと、肩が震えた。
俺は思い違いをしていたのかもしれない。
奉は俺たちと同じ、いや少なくとも近い倫理観を持っていると。
だがいつか、奉自身が云っていたじゃないか。何を勘違いをしているのか。人の生き死になど取るに足りない問題だ、と。
「まさか」
拳を、ぐっと握りしめ、奉の間合いに入った。
「お前…きじとらさんを!!」
「何故」
奉は静かに俺を見返していた。煙色の眼鏡の奥は相変わらず伺いようもないが、頭の奥がすっと冷える感覚だけは分かった。
「な訳ないか…そんな外法なんか使わなくても」
こいつは自らに害を為す者を自動的に呪う、祟り神だ。外法に手を出すような必要性がない。俺は…自分で思っているよりもずっと疲れていたみたいだ。
「………ごめん」
「猫の妖は数多い」
今の一連のやり取りなど無かったかのように、奉は続けた。
「猫又を始めとして金華猫、五徳猫…いずれも人に化けて怪を為す妖よ」
「狐も狸もそんなもんだろ?」
ふらりとよろけてソファに沈み込み、奉は目を閉じた。
「どこの世界に金玉を8畳広げて屋敷を拵える猫がいる。狐狸は『化かす』手段として人に化けることもある。屋敷にも、鬼にも、一枚の壁にも」
いつしか小梅ちゃんは、ベッドによじ登って人形さんの家を作る一人遊びを始めていた。大人に囲まれて育ったこの子は、妙に『引き際』を心得ているところがある。俺はそれが不憫に感じることがある。


「どういうわけだろうねぇ…猫は『人に化ける』一点に拘る…妙な癖がある」


ふと、きじとらさんの姿が脳裏をよぎった。細くてしなやかな指、雪のような白い肌。それは綺麗過ぎて人工的な作為すら感じる時があった。整形だとかそういう俗なものではなく、何処か綺麗な人形めいた…。
「そんなの知らん。…きじとらさんは結局、見つからなかったのか」
焦っていないはずがない。何故、この男がこんなにも取り澄まして現れたのか。
今更
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