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霊群の杜
猫鬼
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出したのだろう。
「…少しは眠れたの?」
母さんが気遣わしげに俺を覗き込んでいた。大学にも行かないで一日中、連絡を待ってぼんやりしている俺が心配なのだろう。俺は軽く肩をすくめると、湯呑を持ち上げた。
「こういう時は、周りがどう騒いでも仕方ないからな…」


『野寺坊』が、息を切らせて玉群神社に駆け込んで来た日から、2週間が経つ。


きじとらさんが身を寄せている廃寺の住職(?)を、俺たちは野寺坊と呼んでいる。本名は聞いた事ないし、聞く必要も感じたことがない。
その野寺坊が、玉群の長い石段を息を切らせて駆けのぼって来た。そして息も絶え絶えになりながら、こう叫んだ。
「―――玉は、居るか!?」
……きじとらさんを見かけなくなって、3日目の昼だった。
きじとらさんを追うように奉が姿をくらまし、もう2週間は経つ。俺だって最初からぼんやりと手をこまねいていたわけではない。情報通の飛縁魔や未来視の静流さんに声を掛け、心当たりの場所を駆け回り、1週間に亘ってきじとらさんを探し続けた。
―――闇雲な捜索が功を奏することはなく、心当たりは回り尽し…今は連絡を待つだけの身となっている。
振られた身で情けない話だが、時間が経つ程に頭の中をきじとらさんの記憶が占める。俺を気恥ずかしくなる程に凝視するきじとらさん。奉にだけ底なしに優しいきじとらさん。俺を斬ろうとした瞬間、瞳を揺らして躊躇った…あの表情…。
駄目だ、何を食っても砂を噛みしめているようにしか感じられない。俺は機械的に、冷めたおにぎりを齧った。


ぱたぱたぱた…と、手足で階段を叩きながら上がってくる幼い足音が聞こえてきた。


思わず、眉をひそめてしまった。小梅ちゃんと姉貴が遊びに来たのだな。だが今の俺には小梅ちゃんと遊んであげられる余裕はない。姉貴…何故今、小梅ちゃんを連れて来たんだよ。そう云ってやりたいが考えてみれば娘が実家に遊びに来るのは自由だし、こんな状態の俺を一人で気に掛けている母さんも、気が滅入っていることだろう。
「ゆーうーきーくん!」
最近覚えたらしいノックのつもりか、小さい拳を叩きつけながら小梅ちゃんが叫ぶ。…なんというか、どうもこの子には女の子らしいしとやかさというか、嫋やかさみたなものが足りない。姉貴の血だろうか。
「のっくがきこえたら、あけるものよ?」
そう云って、ぷりぷりしながら小梅ちゃんが入って来た。言葉はまだ少したどたどしいが、妙に難しい言い回しを使うようになってきた。アニメか何かで聞いたんだろうか。…それを云うなら、ノックしたら『どうぞ』があるまで入らないものよ?と心中で呟く。自然と、頬が緩むのが分かった。
「―――こんにちは」
言葉がうまく出てこない。寝てないし、きじとらさんのことが頭から離れないし。無難な言葉と共にぎこちなく笑うの
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