第9話<共同墓地>
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
や……『先祖』は霊界で喉が渇くらしい」
理屈は分からないが。
「ふーん……」
ちょっと思案している夕立。
「それって、死んだ人っぽい?」
「……そうだが」
いきなり何を聞くんだ?
「それ、分かるっぽい。私も戦闘中はスッゴク喉、渇くんだ……」
「……」
真顔で答える夕立。妙にリアルだな。
私たちの会話を聞いていたのだろう。母親は夕立の顔をチラッと見て呟くように言った。
「アンタやっぱり本当の兵隊さんなんだナ……」
疑ってたのか?
……だが夕立も微笑んで応える。
「ハイ」
何だろうか? その笑顔に母親も表情が緩んでいる。夕立と何かが通じたような印象だ。
それから母親は持参した墓参道具の中から線香の束に火をつけた。線香独特の煙が立ち上る。着火したことを確認した母親は立ち上がると私と夕立に小分けにした線香の束を渡してくれた。
「これ」
「うん」
それから先ずは母親が無言で墓前で手を合わせた。何かをブツブツ言っていた。多分、私のことを祈っているのだろう。
それから母親は私たちを振り返った。
「ほら、続けて」
恐らく墓参は初体験の夕立。私は逐一、説明をしながら一緒に線香を捧げて手を合わせた。
海軍の制服の私も目立つ。加えて地味な田舎町だ。金髪リボンにハイカラな女学生風の制服の夕立の姿は、とてもに目立つ。共同墓地に参っている周りの『地味』な人たちがチラチラと私たちを見ているのを感じる。
しかし夕立は、そういう視線は、まったく気にしていない。そういうところは鈍感なんだ。羨ましい。
改めて見る夕立は腰から拳銃のホルスターを下げているし物騒だよな。まぁ私たちの姿を見れば軍関係者だということくらいは理解してくれるだろう。憲兵さんだって街でも、よく見かけることだし。
さっきの深海棲艦には、かなり驚いたけど。いつも前触れのように感じる私の胸騒ぎも無い。寛代からの緊急連絡も入らない。今のところ、敵が襲ってくる気配は無いのだろう。
逆に不気味な感じもするが……それでも私の心は凪いでいた。故郷での墓参のひと時は静かに過ぎていくのだった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ