第8話<遭遇の十字路>
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秒……いや、もっと長い時間に感じられた。昨日の戦闘に続いて暑くなった今日まで……『わざわざ、ご苦労!』というところか。
祥高さんの『敵は出て来ない』という予想は外れたわけだ。たた深海棲艦らしき『女性』はストーカーの真似事をしているだけかも知れない。あるいは『偵察』か?
この暑さと異常事態に私の頭の中は混乱で一杯になった。
「……参るな」
「あそこ」
……という寛代の言葉で悶々としていた私はハッと我に返った。
混乱している間に軍用車は数百メートルは走ったらしい。寛代は幹線道路の右側に見える赤い看板……自販機のある小さなパン屋を指差していた。
それを見て、運転している日向が応えた。
「了解」
「ぽい」
「なんだよ夕立。その合いの手は」
「?」
母親も不思議そうな顔をしていた。
だが私は、さっきの女性……深海棲艦らしき人物を見た衝撃を引きずって、ただ一人、座席で固まっていた。
シフトチェンジをした軍用車は、そのパン屋の手前で減速した。田舎道だから道幅は広いのに信号は無い。対向車が居なければOKだ。
日向はハンドルを右に回し直ぐにパン屋の角を右折させた。運転している彼女も助手席の寛代も、さっきの女性には、まったく気づいていないらしい。夕立は反対側の座席から外ばかり見ている。
でも日向はハンドルを戻した後で私の異変に気付いた。彼女はバックミラー越しに尋ねてきた。
「司令、どうかされましたか?」
「いや」
私は否定した。本名でなくても親の手前だと役職で呼ばれるのは結構恥ずかしいものだな。
ところが『司令』という言葉に反応した母親がカット・インして来る。
「お前が司令かぁ」
噛み締めるように言う彼女は嬉しそうだった。もし何事も無ければ、私はこの場で『親孝行が出来た!』という気分になったことだろう。
しかし残念ながら、さっきの女性が気になって、それどころではない。
とはいえ日向が私の様子を気に掛けてくれたのは嬉しく、また心強かった。私は心の中で日向に『ありがとう』と唱えていた。
艦娘に支えられる……上官と部下という立場であれば軍隊としては当然のことだが、改めてそのことを実感するのだった。
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