第7話<軍用車で出発>
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つつ彼女はエンジンを始動させる。
ドルルウ! ……と、軍用車のデカい音がする。そして遠慮なく真っ黒い排気ガスが出てディーゼル特有の香りが漂う。
もちろん軍関係者は慣れている。ただ一般人の母親は実際に乗ってみて想像以上の雰囲気に驚いたようだ。目を丸くしてキョロキョロと見回している。
「すごいな」
「うん、ちっちゃいダンプみたいなものだから」
すると夕立が言う。
「乗り心地は良くないと思いますから、何かあったら私にしがみ付いてもイイですよ」
また気の利いたことを言う。ポイント加算。
ふと気付くと軍用車の音で近所の人が窓や通りから顔を出していた。そこには私も知った顔も見える。
「さすがに、ちょっとこれは恥ずかしいな」
私はさり気なく制帽を深くかぶった。
「出発します」
日向はシフトレバーを操作して、ゆっくり車を発進させた。
ガルルと猛獣のような雄たけびを上げながら軍用車は走り出す。音もすごいが振動もすごい。いつもは気にしなかったけど民間人(家族)を乗せるのは初めてだ。改めて気を遣ってしまう。
もしかして母親をこれに乗せたのは失敗だったか? ちょっと後悔した。でも母親は意外に「ほう、ほう」と言いながら半オープン式の軍用車内を珍しがっている。
車は路地から幹線道路へ出る。道行く人の何割かの人は、こちらを注目する。やはり軍用車なのに私以外は女性ばかり、というのが珍しいのだろう。
そんな街の雰囲気を見ながら母は言った。
「面白いな、この車」
「そう?」
意外な言葉。
「軍用車なんて滅多に乗れるモンじゃないけんな。みんなに自慢できるわ」
母親のその言葉に私は苦笑した。なるほど彼女らしい……昔から好奇心は人一倍強かったから私が心配するほどでもなかったようだ。
すると急に夕立が首を傾げながら、いつもの決め台詞を炸裂させた。
「ぽい?」
これは軍用車の騒音と風を切る音のお陰で母親には、まったく聞こえていないようだ。やれやれ、動いてしまえは何とかなるものだな。
軍用車はガルガルと唸りながら表通りを疾走し続けた。
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