巻ノ八十九 水を知りその六
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「そこまでお考えじゃ」
「流石は右府殿ですな」
「そう思うな」
「はい、実に」
「わしもそう思う、そこまでされるとはな」
「並の方ではありませぬな」
「実にな。確かに世には絶対のものはないが」
しかしとだ、ここで昌幸はこうも言った。
「右府殿、いや徳川家の天下はな」
「揺らぎないものになりますか」
「そうなる、しかし右府殿は決して酷薄な方でも約束を違える方ではないからな」
「豊臣家については」
「無体なことをされぬ」
こうも言うのだった。
「それも確かじゃ」
「ですな、やはり」
「そう思う。しかし天下は乱れる可能性がある」
「では」
「その時は」
「わしは大坂に行く」
「そしてそれがしも」
幸村も言った。
「そうします」
「ではな」
こうしたことを話してだ、そのうえでだった。
昌幸は幸村だ、こうも言ったのだった。
「わしも修行をしておる」
「では」
「今から剣術の鍛錬をするが」
「お供して宜しいでしょうか」
「久し振りにわしと共にするか」
「そう思いましたが」
「うむ、ではな」
昌幸は笑みを浮かべ幸村に応えた。
「今から共に汗をかこうぞ」
「さすれば」
「鍛錬と学問は続けておる」
その両方をというのだ。
「今もな」
「時に備えて」
「そうしておる」
「それがし達と同じ様に」
「そうじゃ、わしは必ずその時まで生きる」
昌幸は決意も述べた。
「何があろうとな」
「では父上、ご養生も」
「わかっておる、だから身を慎んでもおる」
「酒もですか」
「御主達はよく飲んでおるがな」
だがそれでもというのだ。
「わしはじゃ」
「酒を控え」
「身を慎んでおる」
「それだけ身を控えておられるのですか」
「そうなのじゃ、わしはもう歳じゃ」
昌幸はこのことをよくわかっていた、自分のことはそれだけわかっているということだ。それで酒もというのだ。
「控えてな」
「備えておられるのですか」
「そこが御主達と違う」
「それがし言い訳になりますが」
「酒はじゃな」
「はい、どうしても」
「ははは、御主達はよい」
昌幸は笑って申し訳なさそうな顔になった幸村に述べた。
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