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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜
第43話 赤とオレンジの秘密と甘え
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 なにはともあれ、その時というものはあっという間にやって来た。
9月の第一土曜日、俺たちは東京から新幹線に乗って日本を西に横断し、山籠もりを目指して移動していた。

 流れる景色はビルから森や畑に変わり、俺達は辺り一面自然に囲まれた光景を物珍しげに眺めていた。季節の変わり目ということもあって緑は茶色へと変色し、はらりはらりと舞い落ちる。それは儚げで、俺の気持ちもそれに乗じてか黄昏ていた。



ふと、数か月前の俺の言動を思い出す。
夏休み入ってすぐに俺達は海辺にある真姫の別荘で合宿するという出来事があった。当時、勉強の成績も芳しくなく、模試試験でもそれが響いていた。

 このままではまずい。
焦っている中、みんなと共に合宿して疎かになってしまうとマズいと思い、あの時は拒否を示していた。
 それでも結局のところみんなに押し切られて参加してしまったが、無駄な三日間ではなかった。
希は中学時代の同級生ということに気づけた。

海の家でミニライブを行い、少しでも名を広めることができた。

そしてなによりも、みんなとの思い出を築くことができた。

 ソレは間違いなく、俺の大切な”記憶”としてずっと残ることになるし、ひとつの人生経験にもなった。
もう、いつか(・・・)の俺とはワケが違うはずだ。


 窓際に置いてある、太陽の光でぬるくなったボトル缶の珈琲に口をつける。ミルクもガムシロップも入れていないままのアイスコーヒーなので、俺は僅かに顔を歪める。
ほんのりと口に広がる苦みが脳の活性化を促しているような気がする。

色も味も闇夜のトンネルの中のように暗く苦いコーヒーは、まるで俺の未来を指し示しているようで───



「ねぇ、何してるの?」
「ん?……外、見てる。好き、だから」



 不意に声をかけられて考えていたことが一気に吹き飛ぶ。
思い出そうとしてもすっかり忘れてしまったので、諦めて声がした方へと振り向く。


───ことりだ。


「そうなんだね。隣、座ってもいいかな?」
「……ん、どうぞ」

 失礼しま〜す、と彼女は隣の空いている席に腰掛ける。
さっきまで前を陣取っている穂乃果らとトランプをしていたような気がするが、わざわざ抜け出してどうしたのだろうか?

 とはいえ特に尋ねるまでもないので、気にせず俺は再度外を眺める。
同時に景色は真っ暗な闇へと変わり、窓ガラス越しに映るのは俺の眠たそうな顔とそれを後ろから何故か楽しそうに見つめることり。

「どうした?なにか面白いことでもあった?」
「え?どうして?」
「なんか、すげぇにっこにこな笑顔で俺のこと見てるから」
「え!そ、そうかなぁ〜。そんなつもりはなかったんだけど」

指摘されて朱色に染めた
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