第5話<母親>
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私と祥高さんくらいだもんな。
「神社っぽい?」
惜しい。
「仏壇だよ。何ていうか、鎮守府の神棚の親戚みたいなものだ」
我ながら乱暴な例えだ。
とりあえず私は畳にひざまづくと線香を手向け手を合わせた。夕立もそれに続いて見よう見まねで線香を捧げる。
およそ、こういうものとは縁の無さそうな艦娘が仏様に手を合わせる光景は、まさに前代未聞だな。それでも、この姿を見ると『お盆』という実感が湧く。
暫く手を合わせていた夕立は顔を上げてこっちを見る。
「もう良いっぽい?」
「ああ上出来だ。さ、奥に行くぞ」
私は夕立を手招きして廊下を進んだ。
私と彼女は実家の居間に通された。そこは8帖で床の間がある和室だ。私たちは座卓を囲む座布団に座った。
実家は大して豪華ではないが居間には空調が入っているから涼しい。
「すごい、涼しいっぽい」
「ああ」
このご時勢、贅沢だな。父親の軍人年金か? 両親は意外と良い暮らしをしているようで安心した。私も親不孝ながら、ほとんど仕送りをしたことがない。親だって、とっくに私の仕送りなんか当てにしてないだろう。
「はあ」
制帽を脱いだ私は両腕を背中のほうに伸ばして、ちょっと天井を仰いだ。そういえば、この和室の雰囲気とか懐かしいな。しばらく建具の木目をジッと見つめている私。
「あれ? こんなに狭かったんだ」
「……ぽい?」
私の独り言に反応する夕立。そういえば母親も、ちょっと小さくなったように感じる。
お茶道具を持ってきた母親は、湯飲みにお湯を注ぎながら言う。
「お前から手紙もらったときは信じられんかったけど。でもその格好見ると……本当に、出世したんだなぁ」
「……」
そうだよ。ろくに仕送りもしない親不孝者が分不相応な位置にいるわけだ。手紙も今回、初めて書いたし……。罰当たりな人事かも知れない。相変わらず実家では口数が少なくなる私だけど。少しソワソワしている夕立も今のところ大人しくしている。取り敢えず助かるぞ。
母親は私と夕立に、お茶を出しながら言う。
「お父さん仕事に行ってるから。夕方まで戻らんよ」
「あ、そう」
軍人とはいえ元空軍だからな。海軍の私と夕立では、父親も居心地悪いだろう。
やがて母親は台所に戻ると、お菓子を持ってきた。夕立は軽く会釈をした。若干『ぽい』が出ているが不自然さはない。良いぞ、ここまでは。
「……」
お茶を置いた母親は、しばし沈黙。うっ、ちょっと間が持たない(汗)
外からは相変わらず、セミの声が響いていた。
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