第5話<母親>
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も私は、少し反論したくなった。
「母さん、人の気配を感じたらさ、ドアを開ける前に確認くらいしてよ」
言いつつ私は気付いた。自分が短気なのは母親譲りだったのか……なるほど納得した。
母親は言う。
「ああ、悪かったわ。まあ、せっかく来たンなら上がれや」
彼女はドアの反対側に立っている夕立の存在に気づいた。
「このハイカラな人は誰ぁだ? お前の彼女か」
首を傾げている夕立。いつの間にか髪の毛も整っていた。
「いや、あの」
……誰がこのご時勢、司令の軍服で女性を連れまわすんだよ! まあ昔はそういう豪傑な司令長官も居たらしいけどね。
しかし、この「艦娘」は母親には理解不可だろう。じゃ部下? ちょっと変だ。なら同僚? うーむ会社員じゃあるまいし。
取り敢えず私が海軍ってことは母親も知っている。えい、面倒だ!
「護衛の……隊員だよ」
「隊員?」
母親は目を丸くした。
「たいそうな御身分になったなぁ」
明らかに信じてない、お母さん。
「まぁ、いい。早よ入れ」
彼女は扉を大きく開いた。
「うん」
しかし母親の前だと、いくら司令という位置があっても親子の関係に戻るんだな。夕立の手前、さすがに少し恥ずかしい。
でも人間的なプライドなんか、艦娘(夕立)は気にしないようだ。彼女は、さっきからただニコニコしているだけ。この調子だと簡単に挨拶だけして、お墓の場所を聞いて済みそうだな。
私たちは母親に続いて玄関に入る。実家は一軒家だ。中に入ると木造家屋の香りと独特の雰囲気に包まれた。
「……ああ、懐かしいな」
ちょっと感傷に浸ってしまう。やっぱり、ここは私の実家なんだ。
少々固まっている私を見て母親が促す。
「早よ上がれ」
「うん」
私は靴を脱いで廊下に上がると振り返った。
「おい、お前も上がれ」
私の動作を見ていた夕立は言った。
「あれ? やっぱり靴は脱ぐっぽい?」
「そうだよ」
少し意外だった。そうか鎮守府では滅多に靴を脱がないか。
「ふーん」
そう言いながら夕立は靴を脱ぐ。
何だか本当に何も知らない人に物事を教えているような感覚だ。こういう一般人の日常生活を、この娘は知らないんだ。
廊下で立ち止まった母親も不思議そうに見ている。
「何だ? やっぱりハーフか?」
「うん、そんなところ」
適当に応える。
廊下を歩き出したとき、私たちは仏間の横を通った。
「そうだ、挨拶しときな」
母親が促した先には我が家の先祖代々の仏壇が置いてある。私は夕立を手招きして仏間に入った。
「なぁに? これ」
当然だが夕立は仏壇なんて初めてだろう。鎮守府にあるのは神棚だし。あれだって毎日手を合わせているのは
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