Side Story
少女怪盗と仮面の神父 44
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…………」
王子は真剣な顔で、ハウィスをじっと見る。
ハウィスも、剣身越しに王子の顔を見つめる。
しばしの沈黙を挿み、そして……
「いいえ」
ハウィスはキッパリと、首を横に振って答えた。
「ネアウィック村の海岸でミートリッテと出会ってから七年間、辛いことも苦しいことも数え切れないほどありましたが、あの子と同じ時を過ごせて、私は本当に幸せでした。すべては、エルーラン殿下が私達とミートリッテに生きていける場所を与えてくださったからに他なりません。感謝こそすれ、恨む筋合いがどこにありましょう。この上死が訪れるまで共にと願うのは、分不相応というものです。……ただ……」
「ただ?」
「急すぎる別れに、心を整理する時間を望んでしまうのは贅沢でしょうか」
ほんの少し上向いた頬を伝い、顎から地面へ滑り落ちる月色の滴。
声は微かに震えているが、王子と目を合わせたまま少しも姿勢を崩さず、泣き喚きもせず、静かに微笑むハウィスに。王子もまた、優しく微笑んだ。
「なあ、ハウィス。権利は主張するものじゃない。活用するものだぞ」
「……?」
「お前はミートリッテの正式な後見人で、ミートリッテは伯爵の後継者だ。絶縁したわけでもない母と子が、いつどこでどんな形で面会していようと、それこそ誰にも……女神にだって咎められる筋合いは無い」
「「「「……??」」」」
「仕事さえきっちりこなしていれば、な」
大きく見開いた瞳が集中する中、エルーラン王子は腰に両手を当て、再び森へ向き直る。
瞬間、気のせいかと感じる程度に小さな、けれど不自然な葉ずれの音が、全員の耳に飛び込んだ。
透かさず臨戦態勢を整える騎士達。
王子とベルヘンス卿は満足気に頷き合い、わざとらしく声を張り上げる。
「さて、ここがお前達の頑張りどころだ。無事に乗り切った全員にご褒美が待ってるからなー。一人たりとも死ぬんじゃないぞー」
「実はエルーラン殿下と貴方の娘が一番足手まといなのですけどね。今回は防御陣形なんですから、いつもみたいに突っ込んでいかないでくださいよ」
「え。ヤダ。まだるっこしいの嫌ーい」
「第一・第二・第三騎士団を半壊させるつもりですか?? 第一はともかく、他は貴方の特攻姿勢に慣れてないんです! 絶対にやめてください??」
「冗談だよ、ジョーダン。……ちっ」
「……セーウル殿下の身に何かあったら、たとえエルーラン殿下であってもぶっ飛ばしますよ?」
「へいへーい。そんじゃまあ、可愛い弟の忠犬君にぶっ飛ばされないよう、しっかり働きますかねえ」
飾り気が少ない実戦向けの長剣を鞘から引き抜いて構え。
息を長く吸い、長く吐いて呼吸を整えた王子は、真っ暗闇な森の奥に潜む敵へ、研ぎ澄ました
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