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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 44
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で気を抜かないでちょうだい!」

 女性の声が、気安い口調で忠告を飛ばす。
 突然聴こえた声音と、その不躾な物言いに驚いた一同が発声源を探り。
 全員の視線が神父に固定されたと認識した途端。
 河岸の空気が凍り付いた。

 アーレストが。
 王族を相手に。
 女としか思えない声で。
 砕けすぎた口調を使っている。

 不敬罪?
 え、でも王子の乳兄弟で、聖職者だし。
 ベルヘンス卿の例もあるから不問?
 そもそも、声が別人?

 などと静かに混乱する騎士達を「気にすんなー」の一声で抑えた王子は、顔だけをアーレストに向けて、にんまり笑う。

「心配してくれてありがとう。お前も気を付けて帰れよアーレスト。んで、事後処理をしてる間に、バカ娘に対する感想を聴かせろ。お前に良い影響を与えてくれる人間は稀有だからな。楽しみにしてるぞ」
「余計なお世話だって言ってるでしょ?? ソレスタのバカッ!」
「「「「??????」」」」

 吐き捨てるように罵倒した??
 聖職者が、王族を??
 しかも、呼び捨て??
 いくらなんでも、呼び捨ては完全に懲罰の対象だろう??

 と、剣を構え直そうとする騎士達に背を向けて。
 アーレストはさっさと河岸を離脱してしまった。
 マーシャルを抱えたメイス第二騎士団団長も、慌ててその後ろに続く。

「今のはアーレストに与えていた課題だ。私が自分を俺と言っている間は、私を王族扱いせず、ごく親しい身内として接するようにってな。私が権力を行使して無理矢理言わせてるんだから、当然不敬罪には当たらない。全員、控えろ」
「「「「は……っ!」」」」

 切っ先を泳がせていた騎士達が、一斉に背筋を伸ばして踵を揃え、剣身を上にした握り部分を胸元へ引き寄せ、反対側の腕を腰に当てる。

 ここに至る経緯や、王子とベルヘンス卿とアーレストの関係など、質問は山ほどあるが、騎士達には自分から王族に声をかける権利が無い。
 尽きない疑問に内心はもやもやしながらも、命じられた通りに控えると。
 不意に、エルーラン王子が足先をハウィスへ向けた。

「ハウィス」
「はっ」
「私を恨むか?」
「…………」
「私は、お前に汚い仕事を押し付けただけでなく、お前が慈しみ育ててきたミートリッテを横から奪っていく。厳密に言えば私が奪うわけではないが。私も、()()()()に引き込める機会があるなら、なんらかの形でそうしたいと最初から思っていた。私もあいつも、アルスエルナの為に使えるものなら、なんであっても使う主義だからな。アリア信仰か、アルスエルナの政界か。どちらにしても、長い間一般民ではいられなかっただろう。権力者の都合でお前達母子(おやこ)を振り回す私が、憎いか?」

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