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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 44
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ヘンスはあいつを直に見る機会が無かったっけか? 羨ましい。あいつの名前、元は「インディジオ」なんだよ」
 「!! ああ、そういう……」
 「な? 祈りたくもなるだろ?」
 「ええ、まあ。本人を知らない私が言うのもなんですけど、耳にした噂を参考にするなら……あまり、楽しそうにしている未来は想像できませんね。……気の毒に」
 三人の男が盛大に息を吐きつつ首を振る姿を、元孤児達は何事なんだと不思議そうに見つめる。
 「とにかく、そういう訳だからな、アーレスト。各種文句はこの件が無事に片付いた後で、思う存分あいつに宛ててくれ。俺は王都に帰ったら直ぐ、騎士候補生達の卒業試験が控えてるんだ。今年は目を付けてた面白い奴が出て行く予定だし、とっとと戻って派手にやらかしてやりたいのさ!」
 「やめたげてよー。だんちょーのせいで毎年、候補生達が卒業試験を必要以上に怖がってるんだよー?」
 白い歯を?き出しにして笑う王子の手前で、金髪碧眼の騎士がやれやれと目を細めた。
 が、その瞳の奥に宿る光も、好奇と愉悦を隠し切れていない。口では止めてあげてと言いながら、自分も楽しみですと無言の内に語っている。
 「俺程度に怖がってたんじゃ、何処へ出しても恥ずかしい出来損ない止まりだっつぅの。その点、フィレスはやっぱりイイな。こっちに来る前に卒業試験の話を伝えといたんだが、すっげー嬉しそうに「お待ちしてます!」って言ってたぞ」
 「あの子くらいのものだよ、だんちょーの回し蹴りを楽しそうに受け止められるのは」
 「お前の所にはやらないぞ、メイス第二騎士団団長。あれは俺が貰う」
 「ざーんねーん。フィレスちゃんは卒業後、爵位後継者として地元でのお仕事が決定していまーす!」
 「なに!? それは……つまらんな。非常に面白くない」
 むう、と顎に手を当てて何やら考え出した王子の背中に、
 「なんにせよ、生きて帰れなきゃ意味がないでしょ。相手はかなりの手練れ揃い。油断してたらあっさり殺されるわよ。私は護れないんだから、気を抜かないで頂戴!」
 女性の声が気安い口調で忠告を飛ばす。
 突然聴こえたその声と不躾な物言いに驚いた一同が首を巡らせて発声源を探り、全員の視線が神父に固定されたと認識した途端、河岸の空気が凍り付いた。
 アーレストが。女の声で。王族相手に。砕けすぎた口調を使っている。
 不敬罪? え、でも王子の乳兄弟で、聖職者で、ベルヘンス卿の例もあるし、不問? そもそも、声が別人?? などと静かに混乱する騎士達を「気にすんなー」の一声で抑えた王子は、顔だけをアーレストに向けてにんまり笑う。
 「心配してくれてありがとう。お前も気を付けて帰れよ、アーレスト。んで、事後処理してる間に莫迦娘(ミートリッテ)に対する感想を聴かせろ。お前に良い影響を与えてくれる人間は
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