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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十七話 転機
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帝国暦 485年 10月21日 イゼルローン要塞 ラインハルト・フォン・ミューゼル
全てを聞き終わり、キスリングの病室から出た時、俺は自分がひどく疲れている事に気付いた。リューネブルク、オフレッサーも同じだろう、表情には疲労の色が有る。皆無言で歩いた、オフレッサーとは途中で別れた。
別れ際にオフレッサーは俺達にこの件を外に漏らす事は許さないと口止めした。言われるまでもなかった。こんなおぞましい話を一体誰にするのか? 聞くことですら厭わしいのにそれを話すなど……。
帝国を守るためにカストロプ公という犠牲を用意した。しかしその犠牲はさらに犠牲を必要とした。気が付けば三百万人以上の犠牲が発生していたのだ。キルヒアイスもその一人だ。そして三百万人を殺したヴァレンシュタインでさえその犠牲の一人でしかなかった……。
俺は姉を皇帝に奪われた。だが殺されたわけではなかった。許可が必要だが会う事も出来た。だがあの男は両親を殺された。そして命を狙われ国を追われた。全てを失ったのだ。今では裏切り者と蔑まれ、虐殺者、血塗れなどと呼ばれて忌み嫌われている……。
あの男はそれに相応しい男ではない。あの男は皆から敬意を払われるべき人間なのだ。有能で誠実で信義を重んじる男……。もっとあの男と話をしたかった。何を考え、何を望んでいるのか、もっとよく知りたかった。
あの時、俺はあの男を殺すべきだと思いそれのみに囚われていた……。殺さなくて良かった、もし殺していたら俺は自分を許せなかっただろう。オフレッサーが止めてくれたことに感謝している。
“俺達は野蛮人でも人殺しでもない、帝国を守る軍人であり武人(もののふ)なのだ。だからその誇りと矜持を失ってはならん。それを失えば装甲擲弾兵はただの人殺しに、野蛮人になってしまう……”
その通りだ、装甲擲弾兵だけの事ではない。軍人は人を殺す、だからこそ、誇りと矜持を失ってはいけない。今回俺はその過ちを犯さずに済んだ。僥倖と言って良いだろう。だが僥倖は二度も続くとは限らない。これからは俺自身が気をつけなくてはならない。
そしてもう一つ気付いたことが有る。俺は軍で武勲を挙げ昇進する事のみを考えていた。そして武力をもって皇帝になると……。だがそれだけでは駄目だ、帝国は俺が思っている以上に複雑で危険だ。帝国の持つ暗黒面を理解する必要が有る。
リヒテンラーデ侯のように帝国を守るために贄を用意するなどと考える人間もいる。俺がこれから上を目指すのであればそういう人間達と互角に渡り合える能力を持つか、そういう能力を持つ人間を味方にしなければならない……。誇りや矜持などとは無縁の男達と互角に渡り合う事が要求される日が来るだろう……。俺はそういう男達と渡り合いながら、誇りと矜持を持ち続けなければならない。
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