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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十七話 転機
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に近づいてきました。
「ヴァレンシュタイン大佐は元々体が丈夫とは言えないようです。あまり無理はさせないほうが良いでしょう。くれぐれも安静にしてゆっくりと休息をとることです……、では」
そう言うと軍医は立ち去りました。
安静にと言うのが気に入らなかったのかもしれません。忌々しそうな表情を浮かべてワイドボーン大佐がヴァレンシュタイン大佐に近づきました。そして押し殺した声で問いかけました。
「おい、あれはどういうことだ?」
「あれ?」
「自ら捕虜交換をしたことだ、一つ間違えば死ぬところだぞ!」
ワイドボーン大佐が怒っています。そうです、もっと怒ってください、ヴァレンシュタイン大佐は本当に無茶ばかりするんです!
「生きていますよ、この通り」
緊張感の欠片もない声でした。ヤン大佐が後ろで呆れています。
「結果論だ、運が良かったに過ぎない」
「そうじゃありません、勝算が有ったからやったんです」
嘘です、絶対に嘘です。大体ヴァレンシュタイン大佐は銃で撃たれているんです。それに大佐はミューゼル准将に自分を撃てと言っていました。准将はもう少しで大佐を撃つところだったんです。どうみても自分の命を粗末にしているとしか思えません。
「勝算だと?」
「ええ、百パーセント勝てると思っていましたよ」
「百パーセント? 嘘を吐くな、バグダッシュ中佐とミハマ大尉から聞いている。もう少しで殺されるところだったとな」
そうです、もっと言って下さい。大変だったんです。私もバグダッシュ中佐もあの時は死を覚悟しました。今こうして生きているのが不思議なくらいです。それに帰りは大佐は意識を失ってしまい、死んだのではないかと本当に心配しました。私はワンワン泣いてしまい、中佐に怒られながら大佐を運んだんです。中佐だって半べそをかいていました。
「殺されそうにはなりました。でも生きています、問題は有りません。バグダッシュ中佐とミハマ大尉には感謝していますよ、生存率百パーセントが百二十パーセントくらいになりましたからね」
ヴァレンシュタイン大佐が笑顔で話しかけます。ワイドボーン大佐は目を怒らせ、ヤン大佐は苦笑していました。
「まあ無茶をするのは今回だけです、これからはしませんから安心してください……。私は少し眠くなりました、先程軍医からもらった薬の所為でしょう。少し休みますので一人にしてください。軍医からはくれぐれも安静にするようにと言われているんです」
そう言うとヴァレンシュタイン大佐は目を閉じました。軍医に安静にと言わせたのは間違いなくヴァレンシュタイン大佐です。ワイドボーン大佐に責められるのを防ぐためにそうしたに決まっています。そのくらい大佐は油断のならない根性悪なんです。
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