第四章
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「今度の日曜空いてるかな」
「空いてますが」
「よかったらその時駅前の商店街に行かない?」
こう申し出たのだった。所謂デートの誘いだ。
「どうかな」
「つまりそれは」
「デートしない?正直に言うけれど」
もうここまで来たら逃げるな、だった。亜美は踏ん切りをつけたらとことんまで進むタイプだった。後ろも振り返らない。それで猪木にさらに言うのだった。
「貴方タイプだから。背が高くてね」
「僕も彼女はいませんし。それに」
「それに?」
「お名前は。お客様の」
「ええ、大林亜美っていうの。八条西高校の一年よ」
「あっ、あの高校の」
「ええ。それでいいかしら」
自分より二十センチ以上も高い猪木にだ。亜美は問うた。
「イエスかノーか。どちらなの?」
「イエスです」
猪木は微笑んで亜美に顔を向けて答えてきた。確かに顎はかなり大きいが端整な顔と言える。そして何よりもとにかく身体が大きかった。亜美よりも遥かに。
その彼が微笑んで答えてくれたのでだ。亜美は天にも昇りそうになった。その彼女にさらにだった。猪木は微笑みのままこう言ってきたのだった。
「では日曜日に駅前の商店街で」
「お店の時間終わったら携帯の電話番号とメアド交換ね」
「はい、それでは」
こう話してだ。そうしてだった。
二人は交際することになった。亜美にとっては最高の進展だった。それでだ。
亜美は笑顔でクラスメイト達に二人の仲の進展について話す。その状況はというと。
「もう何度もデートしてね」
「あっ、順調じゃない」
「上手くいってるのね」
「ええ、それでね」
にこにことして上機嫌でだ。亜美は友人達に話していく。
「今度彼のお家に行くことになったのよ」
「何よ、向こうの家族公認になるの?」
「公認のカップルになるの?」
「そうなるっていうの」
「そうなのよ。もうそれが嬉しくて」
実際ににこにことして話す亜美だった。
「何て言ったらいいかね」
「やれやれ。これはね」
「もうおのろけモードね」
「それに入ったわね」
「猪木が言うのはご家族もいい人達ばかりだし」
亜美は全く心配していなかった。のろけとは心配を消し去る最も強い薬だ。ただしその薬がいつも心配を杞憂に過ぎなかったとするとは限らない。
「これを機に仲をより進展させていくからね」
「やれやれ。この前まで彼氏できないって困ってたのに」
「それが今じゃこれなのね」
「人間って本当に運命が一変するわね」
「特に恋愛絡みは」
クラスメイト達はそんな亜美ののろけに暑がってみせて手で首筋をぱたぱたとさせてさえいる。とにかく亜美は今は幸せの絶頂の中にいたのだった。
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