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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十六話 真実
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うな人間こそが政権の中枢にいるべきだと主張して退かなかったのです。男爵は当時健康を損ねていました。或いはそれも影響したのかもしれません」

「カストロプ公は気付いたのだな」
オフレッサーが低い声で問いかけた。キスリングが頷く、そして口を開いた。
「気付きました。そしてヴェストパーレ男爵が何を考えているのかも理解したのです。自分が殺した人間の息子が自分を追い落とすための存在になろうとしている。カストロプ公は明確にエーリッヒを敵だと認識した」
「……」

「カストロプ公には敵が多かった。それだけに自分にとって危険だと思える人間に対しては容赦が無かった。カストロプ公はエーリッヒを排除するべきだと判断したのです」
「……」

「爵位を持つ貴族が死ねば典礼省より検死官が来ます。死体に異常があれば当然調査が入る。カストロプ公がエーリッヒを排除するのはエーリッヒがリメス男爵家を再興する前でなければならなかった」

「それが第五次イゼルローン要塞攻略戦か……」
「そうです。エーリッヒは亡命しヴェストパーレ男爵はその直後、病死しました。伯によれば最後までカストロプ公を憎悪していたそうです。憤死と言って良いでしょう」

思わず溜息が出た。死屍累々、そんな言葉が浮かんでくる。カストロプ公一人のためにどれだけの人間が非業の死を迎えたのか……。皆同じ気持ちなのだろう、リューネブルクは俯き、オフレッサーは目を閉じている。

オフレッサーが目を開いた。
「まだ聞くことが有ったな、キスリング少佐」
「はい、何故ルーゲ伯はカストロプ公を告発しなかったか? 何故辞任したのか? ですね」
「うむ」

キスリングが笑みを浮かべた。冷ややかな笑みだ。そしてオフレッサー、リューネブルク、俺を見渡した。
「ルーゲ伯はヴァレンシュタイン夫妻殺害事件の一件でカストロプ公を断罪しようとしました。殺されたのは平民ですがキュンメル男爵家の財産横領が目的の殺人です。十分に可能でした」

「しかし現実にはそうならなかった」
俺の言葉にキスリングが頷いた。
「ルーゲ伯を止めた人間が居ます」

司法尚書を止める? それなりの影響力を持つ人間だろうが誰だ?
「国務尚書、クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵……」
「!」
キスリングの言葉に病室の空気が固まった。

「馬鹿な、何故そんな事を」
喘ぐようにリューネブルグが声を出す。同感だ、国務尚書として国政の最高責任者の地位にあるリヒテンラーデ侯が何故カストロプ公を庇うのか、一つ間違えば自分自身が失脚することになるだろう。

「カストロプ公爵家は贄なのです」
「贄……」
キスリングが何を言っているのか分からなかった。オフレッサー、リューネブルクも訝しげな顔をしている。そしてキスリングは相変わらず冷や
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