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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第十七話 雌伏
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働いている証が欲しいところだ。だが、この場に始末した七人の首を持参しろというのも難しい。間者を始末したというなら、死体はそこらに打ち棄てているにだろうしな。

「勿体ないお言葉でございます」

 夏は俺に返事し平伏した。彼女の声音から彼女が安堵しているように感じた。その様子を俺は静かに眺めていた。
 最近、藤林正保が江川氏の間者を三人始末したと報告があった。真偽はともかく風魔衆は間者を七人始末したと報告している。そう考えると地の利がない藤林正保の配下の成果はまずまずなのものかもしれない。
 藤林正保の報告によると、江川氏の間者は韮山から沼津方面に向かっていたそうだ。伊豆国の交通の要衝、沼津、を経由して向かう先はどこか。豊臣軍が抑えている街道沿いを通って移動を試みるとは大胆不敵な行動だ。
 想像だが徳川の旗本として仕える江川英長の家臣と名乗り街道を自由に移動しているんだろう。少なくとも韮山城に籠もる江川英吉と徳川家康は間違いなく通じている。徳川家康が一枚噛んでないとこんな行動はできない。そうなると徳川家康と北条氏規が通じている可能性は事実と見てしまって大丈夫だろう。
 俺が思案気な表情で考える素振りをしていた。

「小出相模守様、一つ献上したきものが御座います。お役立ていただければ幸いでございます」

 夏は徐に俺に声をかけてきた。彼女は懐から分厚い折り畳んだ紙を差し出してきた。

「それは何だ?」
「拝見いただければ分かると思います。風魔小太郎が小出相模守様に対し二心無きことの証になるかと存じます」

 夏は勿体つけたように俺に言った。俺は柳生宗章に目配せして、夏が差し出した紙を俺を渡すように指示した。俺は柳生宗章から紙を受け取ると開いていく。紙は巻き四つ折りにされ、更に二つ折りにされていた。紙を開くと、その大きさは四尺(約百二十一センチ)あり、建物の見取り図が書かれていた。見取り図に書かれている建物の名前と配置場所を見続けると、俺の脳裏を何かがかすめた。

「韮山城の見取り図か」

 俺は夏に対し質問するので無く確信めいた口振りで問いただした。夏は俺の質問に対し頷いて返事した。俺は口角を上げた。
 この見取り図には堀切などの城の備えについての詳細についても書かれていた。これは最高の軍事機密と言っていい。藤林正保の仕事が楽になる。

「これは信用できるのだろうな?」
「問題ございません。北条美濃守様が韮山城の堀の拡張工事をされていた頃に風魔が作成していたものでございます」
「その頃には風魔衆は北条を見限っていたということか?」

 図面を作って隠し持っているとは油断も隙も無いな。これではおちおち風魔衆を信用できなくなる。だが、役目の上で必要だったのかもしれない。風魔衆には用心しておいた方が良さそうだ。

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