第6話『月下舞踏』
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
くて。
「それでは皆さん、ご唱和下さい──ここに至るは月夜のサーカス、いざやご覧にいれましょう──It's『moon light fantasy』!!!」
歪む。歪む。歪んで行く。
探偵社の二階、その空間がみるみるうちに溶け消える。まるで狂気に囚われたかの様に、目に見える世界が変わっていく。
気がつけば狼牙は、探偵社の廊下へと放り出されていた。先程まで居たはずの部屋、その外にだ。
「くっ……!」
目の前のドアを急いで開ける。入り直したその部屋は──全くの、もぬけの殻。
なるほど調度品はそのままだ。だがしかし、先程まで誰かがそこに居た、などという、生活の後が全く見えない。
してやられた──その事実に気がついたとき。
「畜生……ッ!!!」
狼牙は憤怒に、その表情を歪めるのだった。
***
「というわけで到着っ、と」
探偵社のメンバーたちの視界が正常を取り戻したとき、そこに写る景色は様変わりしていた。先程までの事務所とは大きく違う、薄暗い一室。調度品は綺麗だが、どこか古びていて、もの悲しい。
まるで主を喪った古城の様──絵里は直感的にそう感じた。
「ここは……?」
「川越近郊の廃宿だよ。最も、今は探偵社の支部というか……隠れ家のひとつとして使ってる」
「隠れ家……」
健のその言葉に、絵里は家族のことを思い出す。燃やされてしまった家。しかし絵里の家族は探偵社の手引きのもと、どこか別の場所に隠れたという。
自分達が襲撃されてしまった様に、まさかお父さんとお母さんも──
「心配しないで下さい。これでも、建物を見る目には自信があります」
「達也さん……」
恐怖に震える絵里の様子を見て取ったか。少しぶっきらぼうに、達也が告げる。そうですよー、と、隣に立ったかずのこも応えた。
「達也さんの鑑定眼は一級品です。ボクも何度、兵児さんの金庫の鍵を鑑定してもらったことか……」
「ねぇちょっと待って。なんで俺が銀行に預けないで置いてる現金があること知ってるの? というか何で金庫の在処に気づいてるの? いっつも開ける度にちょっと減ったか? でも気のせいだよな? と思ってたらお前らのせいだったのかよ返せよ」
兵児の、無表情にして無隆起ながら、明らかに切実な声を完全に受け流し、かずのこは「だから」と続ける。
「安心してください。絵里さんのご家族は、皆無事ですよ」
「この建物だって、ギリシア神話の迷宮みたいな構造になってるけど、そもそも迷宮ってのは一本道だから。敵は絶対通り抜けられないけど、僕達は容易に動けるのさ」
健はニコニコ笑う。
そんな彼らの姿に、絵里の心は少しだけ軽くなった。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ