暁 〜小説投稿サイト〜
俺たちで文豪ストレイドッグスやってみた。
第6話『月下舞踏』
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 沈黙がその場を支配する。重力が数割増しになった、と錯覚するほどの、重々しい沈黙。

「……いや、ちょっとは戦えよ……」
「え? なんで?」

 愛らしさをかなぐり捨てて、思わず、と言った様子で呟く狼牙。その姿に健は、あっけらかんとして答えるだけだった。
 
「何言ってんだ健さん? えっ、何、馬鹿なの? 死ぬの? アザトースでも起こすつもりなの?」

<i6803|14692>

 ここまで棒読みである。因みにアザトースはとあるコズミック・ホラー小説に登場する魔神の類いで、盲目白痴にして全知全能、常にまどろむ赤子の姿をしている。世界は彼の見る夢であり、彼が目覚めれば世界は滅ぶ──

 つまりは冗談なのだがマニアックで非常に分かりにくい。それほど台詞の内容は随分と錯乱している。それが示すとおりに、そう言った兵児は、彼をよく知る存在が見れば、驚くほど焦っていた。当然だ。先程までマフィアに立ち向かうための策を練っていたはずの健が、突然にその主張を引き下げ、敗北を認めようとしているのだから。ここに集った者達全員が異能者マフィアに立ち向かい、絵里を護ると決めたはずなのに──

「じゃぁどうしろっていうのさ」
「そりゃこっちの台詞ですよ」

 達也が顔を顰める。

「俺達の運命はあんたに掛かってるんだ。そのあんたが諦めて、どうするんだよ……!」

 珍しく声を荒げて叫ぶ達也の姿に、健は「怖いねぇ」と冗談めかして呟くだけ。狼牙の方を向いて、彼は一言、問う。

「ねぇ、君たちはどれがいい? その1、滅茶苦茶抵抗される。その2、大人しく僕達は捕まる」
「そりゃもちろんその2ですよ。こっちも無限の時間がある訳じゃないんで。さっさと捕まってくれると助かります」

 うーん、そうか。と呟く健の姿を諦めと取ったか。狼牙の表情が歪む。これはいい。手間が省けた。先の失態──目の前に標的と、完全なるブラックボックスたる江西達也を前にして、殺すことも出来ず逃亡した、という汚名を晴らすことができる。こちらにも考えがあっての行動だったのだ。それを愚弄されたままでは気分が悪い。チャンスは、生かすべきだ。
 じゃぁ──と、彼が声をかけようとした、その瞬間のことだった。

「そりゃ良いことを聴いた。なら僕達が取る案は──『その3』だ!」
「何っ……!?」

 健の右手が高々と掲げられる。窓の外から、月光が射し込み、その手を照らす。

 ──月光(ムーンライト)

「しまっ……!」

 気づく。マズい。これまでの全ては、今、この状況を作り出すための──()()()()()()()()が、姿を出すタイミングまでの、時間稼ぎ……!!!

 そしてその気付きは。
 余りにも、遅
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ