第三章
[8]前話
「絶対にだ」
「面白い。さらに面白い」
ヘラクレスの心を見て。そのうえでの言葉だった。
「それならばだ。俺を倒してみるのだな」
「何度も言うがそのつもりで来ているのだ」
こう言ってだ。そうしてだった。
ヘラクレスはまた棍棒を振るう。それで。
獅子を打ち獅子も負けじと前足を振るう。岩場の上での二人の攻防は続いた。
だがその中でだ。まさに一瞬だった。
獅子はバランスを崩した。そしてその一瞬で。
ヘラクレスはさっと前に出て左腕で獅子の首を絡め取った。そのうえで獅子に対して言った。
「このままだ」
「絞め殺すか」
「俺が言われたのは御前を倒した証拠を持って来いということだ」
「つまり俺を生け捕りにしてもいいというのだな」
「そして俺の国の王に見せる」
獅子のその姿をだというのだ。
「それで何の問題もない」
「それでか」
「貴様は死なずに済む」
事実上の助命だった。
「それでどうだ」
「獅子は負けぬものだ」
獅子はそのヘラクレスにこう答えた。
「そしてだ」
「そしてだというのか」
「敗れる時は死ぬ時だ」
「では御前は」
「俺は敗れる」
首を完全に捕らえられた。ならばそれは明らかだった。
「そしてそれならばだ」
「死ぬか」
「そうだ。生き恥を晒すつもりもない」
これが獅子の返答だった。
「例え何があろうとも」
「ではこのままだ」
ヘラクレスもだ。獅子のその言葉を聞いてだ。こう返した。
「首を絞める。いいな」
「そうしろ。俺は死ぬがそれでもだ」
「獅子として死ぬか」
「そうする。誇りと共にな」
「わかった。それではな」
ヘラクレスは獅子の心を受け取った。そうしてだった。
その腕に力を入れ首を絞めた。そのうえで。
獅子は死んだ。だがその顔は毅然としていて誇り高いものだった。その死を観てだ。
神々は獅子を天界にあげ星座としてそこに永遠に生きさせることにした。獅子は今もそこにいる。そして夜空に誇りを見せている。彼は夜空でも確かに獅子だった。それ以外の何者でもない。
誇り高き獅子 完
2012・5・29
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ