5 殺意
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に喰い込んでいき首筋から一筋の血が流れる。
少女が下を向いたと思うとゆっくりと須佐之男の方へと向き返る。
須佐之男は少女を見て、再び心臓が掴まれる感触に駆られた。
笑っていたのだ。
凶悪な笑みだからではない、むしろ真逆で。
可憐な花が咲いたような笑み。
須佐之男は震える手で再度刀に力を入れて横に断ち切るが。
少女は一種緩まった拘束を破り、しゃがんで刀の閃撃を回避する。
少女が立ち上がると、須佐之男は刀を仕舞わずに三歩と後退する。
視界が歪む、少女の顔がまるで分からなくない。
生まれて初めての恐怖、それも少女に恐怖を見せている。
闘士も牙も磨きあげられた獅子が、気圧されている。
須佐之男は恐怖に身を駆られながらも、その躰は経験、慣れから少女の挙動を見逃さない。
今、頭が廻らなくとも幾度と無い戦闘で必ず相手が放つ殺意の牙。
戦闘の果てに殺意を感知できるようになっていた、そう。
殺意を感知できるからこそ少女には勝てなかった。
構えをとった自動操縦の狂戦士の身体に鋭い痛みが流れる。
あまりの痛みで思考回路が正常化し、ようやく自身で少女の姿を認識した。
ゆっくりと歩き、正確に腹部を、肝臓を一突。
その攻撃に、挙動に、全く殺意は篭っていなかった。
まるで少女は殺すことをどうとも思っていない。
一流の殺し屋でさえ、大量殺人鬼でさえ、慣れだろうと、何も考えずに殺すことは不可能だ。
恨みも怨みも無いとしても、殺すと言う事は『殺す気を持って殺す』ということだ。
殺意のない殺人というのは二種類しか存在せず、『意識がない間接犯罪』と
『殺すという意味』を、『死ぬという意味』を知らないと言うことだ。
しかし、何故だと須佐之男は膝をついて想う。
『殺す』を知らないものが、何故。
人体の急所を正確に突いているのか、と。
こんな無垢な少女が、殺意のないはずの少女が…知り尽くしているのか?
多量の出血に目が眩む、折角戻った頭が朦朧として考えることがままならない。
「ハ、ハハ、クハ、ハ」
だが須佐之男は笑みを零す。
自分でも何故だか分からない。
空を見ていた少女がこちらを向く、ようやく見えたその表情は最初通り、真っ黒だ。
「…死、か。なる…ほど。ク、ククク…ハハハ、ハ。」
「今日、死ぬ日が来る。とは、」
少女は須佐之男の前でしゃがみこむ。
攻撃のチャンスだろうか、だが無理だ。
須佐之男の視界が白く淀んでいく。
父を殺し、母に追放され。
見知らぬ彼女を救い。
救った彼女から愛を受け、救った彼女だけを愛した。
「いい末路だ」と声が出ずともそう言って笑う。
思い残すことは勿論ある、だ
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