第1話<艦娘の故郷>
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る。計画によれば今週中には埠頭の基本工事が完了する。
「一週間……」
私は壁の暦を見た。気が付けば8月だ。時の流れは速い。お盆を前にして美保も若干は気温が下がってきた。朝晩も涼しい風が吹く。
実は私の母親には美保への着任のことは手紙で伝えてある。軍隊の司令職といえば世間的にも認められる立場だ。だから多分、喜んでくれたことだろう。
「しかし実は艦娘の司令でした……なんてね」
私は苦笑した。この説明は実際に面倒そうだ。そもそも艦娘という存在が、まだ世間的に、あまり認知されていない。機密までは行かないが、海軍省もまだ積極的に一般国民に宣伝はしていない。「知る人ぞ知る」といったところか。
まあ艦娘は置いておいても、母親は私が地元に戻って来ていることは知っていても、こちらの細かい状況は分かり難いだろう。
そういえば私の父も空軍の操縦士だったが、今思えば彼も謎が多かった。やはり軍事機密か?
「まあ軍人なんて、そんなものだ」
私は自分に言い聞かせるように呟いた。だいたい艦娘自体が謎めいているからな。
ちょっと集中が途切れた私は、ボーっと壁の暦を見ていた。
「あ、よく見たら来週は、もうお盆か……墓参の季節だな」
私も実家の墓参なんて、もう何年もご無沙汰だ。帰省もロクにしなかったから。でも、せっかく地元に着任しているんだ。今年くらいは墓参り行くべきかな?
……そこで、ふと思った。
「艦娘は、お盆に帰省とか、するのか?」
いやそれ以前に、艦娘の素性や生い立ちについては、まったく知らない。そもそも艦娘は普通の人間じゃないから分かるはずも無いか。
「戻りました」
秘書艦の祥高さんが書類の束を抱えて執務室に帰ってきた。私は今の疑問を彼女に尋ねてみた。
「戻って早々変な質問だけど……艦娘って帰省するのか?」
書類を整理していた彼女は、その手を止めると一瞬、考えた。
「帰省という概念が当てはまるか分かりませんけど……強いて言えば海軍工廠とか造船工場でしょうか?」
「あ、そうか」
納得したような、良く分からないような。
「もっとも休暇に自分の造船所とか生まれ故郷へ足を向ける艦娘は、ほとんどいないでしょうね」
彼女は苦笑する。
「やっぱりそうなんだ」
彼女らは生まれた時点で既に一人前だ。人間的な幼少時代とか親戚や血縁すらない。だから「故郷」という郷愁も湧かないか。
「ただ……」
祥高さんが続ける。
「出生地よりも自分たちを鍛えてくれた戦場や鎮守府、同じ部隊内での艦娘同士の共通の戦歴そのものが彼女たちの心の故郷となり得ますね」
祥高さんは淡々と続けた。それって、まさに「軍人」そのものだな。やはり彼女たちは生まれながらにして戦うべき宿命を背負ってい
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