第三話 新たな天使
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と一緒に話をしたり、空を眺められて楽しかったんだって……」
────止めてくれ。
聴きたくない。聞きたくない。
「お姉ぇちゃん。もしかしたら、最初からその男の子のこと好きだったんじゃないかな。だってね、お姉ぇちゃん。その男の子の事を話してる時とっても楽しそうだったんだ。今でも、たまに怒ってるように見えるけど……お姉ぇちゃん、笑ってたんだ。
この前のテストの点数で負けちゃったんだって。お姉ぇちゃん、その事を自分のことのように喜んでた。でもね、最後は怒るの。私より点数高いなんて生意気!って……ホントに楽しそうに男の子のことを話すの」
「やめろ!」
声を荒げ、俺は女の子の声をかき消した。
「ママ、お姉ぇちゃんが……」
それでも、女の子はやめない。
止めろ。なんで、それをママって呼ぶんだ。それはママじゃない。もう、人間じゃない。
「もう、死んでるんだ……」
女の子はそれを揺さぶる。
────血。
足元は血で一杯だった。
これ、全部。アレから流れ出た血なのだろう。ははっ、そうか。
そうか、アレは死んでるんだ。そうだ、死んでるんだ。
女の子は母親の死を理解できていない。
母親だったそれを、まだ、母親だと思っている。
駄目だ。それじゃあ、駄目なんだ。
「誰か……助けてくれ…………」
「おい、誰か!誰か!」
「パパ!ママ!」
「────」
耳を澄ませば聴こえてくる。
悲鳴、叫び。助けを求める声。
そして、それは増え続ける一方で。徐々に消えていく。
いや、正確には消されているか。
「行こう、ここは危険だ」
「やだ……ママ、ママも連れて行って」
「無理だ。もう、それに。もう、それは君のママじゃない」
「ママだよ、私の。
私のママだよ!」
女の子は母親だったものに抱きつく。
冷たくなった肉の塊。流れ出るおびただしい血の量。それを見て、俺はどうとも思わなかった。
苦しい、とか。悲しい、とか。
そんな人として当たり前の事を思えなかった。
あぁ、俺はあの頃から何も変わっていないのだろう。
だから、この今の光景を昔と重ねてしまうんだ。
泣きわめく女の子に、俺は何もしてやれない。
「じゃあ、君はここに残るの?」
「……」
「君のママは、君に生きて欲しい。そう思ってるはずだ」
「……」
「君は、ここで死にたいの?」
「……」
女の子は黙り込んだ。
なら、もういいや。俺に出来ることは何も無い。
立ち去ろうとする、その時だった。
「……死にたくない」
女の子はそう呟いた。
「なら、ここから離れよう。まずは安全な所まで逃げるんだ」
手を差し伸べ、笑顔を作る。
女の子は俺の手に触れる────は
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