第5話「汝に幸あれ」
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
だった。
歪む。空間が。それはある意味で健のそれと同じで、しかし根本的に違う能力。
健のそれは、空間を歪ませ『飛ぶ』技術。制約も多々ある代わりに、汎用性も高い。
たいして『それ』は、ただひたすら『繋げる』ことに特化した業。汎用性を犠牲にした代わりに、「その目で実際の場所を見る」というただそれだけで、ありとあらゆる空間へと、自由自在に『扉を開く』。
異能名、『その扉の向こう側に』。
それを持っている人物は、一人だけ。
「みんな大好き、ろーがさんの登場だよ」
黒髪の少年が、立っていた。先ほどまでは誰もいなかったはずの、健達の背後。机の上??健が、祐介から奪い取った書類を置いていた、机の上だ。そこに、黒鉄狼牙が腰かけている。
にまにまと笑う彼の姿を見た瞬間、図られた??と、直感的に、健は悟った。同時に心の中で、何度も舌打ちをする。
祐介は、別に不用意に書類を持ち歩いていたわけではなかったのだ。健が彼の考えることをすべて把握できるのと同じように、彼もまた、健が考えることすべてを思いつく。
そして、決定的に二者を分けるのは??備わった、『幸運』だ。
祐介は、健の思い通りに動くことは無い。祐介の幸運が、健の思い通りに動かない未来、即ちは自分に有利な未来を引き寄せるからだ。
健は、祐介の思い通りに動く。なぜなら、祐介の幸運が、健が思い通りに動く未来を、つまりは自分に有利な未来を引き寄せるからだ。
完全に見透かされていたのだ。健が祐介から書類を奪うということは。
完全に予定されていたのだ。健が??すっかり、狼牙の能力の発動条件に関する考察を忘れているということは。
『その扉の向こう側に』は、「一度見た場所」をトリガーに、あらゆる場所と場所を繋げる力だ。だが、「場所」というのは、いったいどのような基準で選ばれているのか?
簡単だ??能力者の、主観である。
例えば。祐介が、書類をどこかの机の上に置いたとして。
その上に狼牙が立つとして。
??『書類の上という場所』を、『扉』を繋げる先の風景として、登録していたならば。
あの書類を健が奪い取り、そして机の上に置いた、という時点で、このプライベートルームは、彼の転移の範囲内……!
「やぁ……エース君」
背を伝う冷たい感触を必死で押さえつけながら、健は少年に呼びかける。彼はその名を聞いて露骨に顔をしかめた。
「その名で呼ぶな」
冷たい、氷のような。いや??獣が、冷酷に獲物を狙うような、目。それはその場にいる人間を。特に、戦いに慣れない絵里を凍り付かせるのには。十分だった。
「まぁいいです。そんなことより皆さんに残念なお知らせでーす!」
次の瞬間にはいつもの明るい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ