第5話「汝に幸あれ」
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優雅な動作で座ると、特に何も入っていないグラスを口につけ、何かを飲むような動作をしてからこちらを見る。そして唐突に画風の違……キメた表情をとると、
「僕は大歓迎ですよ」
「それ言うためにその動作したの?」
「いやん、リッチ」
達也と兵児が反射的に突っ込みを入れる。ちなみに兵児は変わらず無表情、ついでに棒読みである。
「い、いや、そんなこと言ってる場合じゃなくて……っ!」
「じゃぁ決まりね」
「ちょ、ちょ―――ちょっと待ってください!」
わたわたと焦る絵里をよそに、健は笑顔で結論付ける。もちろん絵里は話題の終了を阻んだ。
「どうして急にそんなことを? それに、なんで私が……?」
眉根をよせて、不安そうに問う彼女。どうやらある種依頼者的立場でしかなかった自分が、唐突に『被依頼者』の側に入る、ということが不思議で仕方がないらしい。
健はんー、としばし考える。
「じゃぁさ、逆に聞くけど……絵里さんは、この先どうするつもりなの?」
「え……?」
「家に帰るのは無理なのは知ってるよね。それに今は僕たちが護衛してるけど、いつまでもこの状況が続くとは限らない。兵児君のおかげで前回、キョウヤの襲撃をはじき返すことができたけど、次もうまくいくとは限らない。兵児の『Smart Links』にも、召喚の限界はあるんだ。
逆に向こうには、まだ遭遇していない異能者がいるかもしれない。こちらの手札はほとんど見せているのに、向こうの全貌は把握できていないし。こないだそれで痛い目見てるでしょ」
絵里の脳裏に蘇るのは、小柄な黒髪の少年だ。狼のようなフードを被った彼は、人懐っこそうな笑顔と共に絵里に近づき、そして??
あの時のことを思い出すと、震えが走る。
「もちろん、護衛は続ける。けど、それにもいずれ限界がくる、ってことさ。こっちも仕事だ。お金はもらわないといけない。だけど、絵里さんにはそのお金にも限界がある??」
そうだ。
自分は、狙われているのだ。まっとうに働くことは赦されていない。護衛の人たちは、共に働くことはできまい。何より、同僚たちを危険にさらしてしまう??
ぞっ、と。
絵里の足元に、黒い穴が開いたような錯覚。虚無だ。無だ。何も見えない、底なしのヴォイド。このままなら、どこまででも引きずり込まれて??
「だからそのための考え、ってことですよ。そうでしょう、健さん」
達也のその一言で、はっ、と絵里は我に返る。彼を見れば、その真面目そうな顔をさらに真剣な表情で覆って、背の高い少年は言う。
「依頼者??ある種の『客』としてなら、報酬に限界が来た時点で俺たちは手を引かなくちゃいけない。たいして従業員??『仲間』としてなら、俺達にはそれを護るという義務がある。それは
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