第5話「汝に幸あれ」
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ないよ、祐介君」
その手には、一部の書類が携えられていた。『古代機開発依頼発注書』、と丁寧にも書いてあるそれは、先ほどの祐介が、やはり鞄の中に入れていたものだ。おそらくは紛失することを警戒して常に持ち歩いていたのだろうが、甘い。健の方が一手先を行っていた、ということだろう。健の『Moon Light Fantasy』は、何も歪められる空間が一か所だけとは言っていない。そもそも転移する先ともともと自分がいる場所、という二か所の空間を歪めるのだ。さらに広げることが可能だとしても、なんら不思議はない。
健は先ほどの転移のときに、同時に祐介からこの書類を奪ってきていたのだ。これでマフィアたちが絵里を追う理由はほぼ確定した。あのスケッチブックに描いたモノを、現実のものとして顕現させる異能??あれと古代機を以て、何らかの現象を引き起こそうとしているに違いない。
だが、まだわからないことはある。何故絵里でなければならないのか。彼女がどうやらスケッチブック以外の場所に実体化する絵を描くことはできないらしい、ということは、注意深く観察すればすぐ分かる。そしてサイズは描いたモノと同寸??つまり、あまり大きなモノは創りだすことができないのだ。
そこから考えることができる、マフィアたちから見た絵里の『利用価値』は??
「健さん、どこに行ってたんだ」
「ん? ああ??ごめんごめん。集まってもらってたことを忘れてた」
思考が中断される。下手人は兵児だ。彼は無表情の中にも少しの不機嫌さをたたえながら、じっ、と健を見つめていた。
兵児だけではない。達也、絵里、かずのこの三人もまた、健のことを呆れたように見ている。
「それで。態々俺達を集めた理由は何なんだ?俺まで呼ぶなんて、何か重大なことなんだろ」
面倒くさがりの彼に相応しく、ほぼ全く表情を動かさずに、兵児は静かに問う。うんうん、と後ろでかずのこが頷くのが見える。「僕執筆したいんですけど」という顔だ。
これは変なことは言えないな……と、先ほどとはまたちょっと違った緊迫感を感じながら、健は笑った。持っていた書類を机の上に置き、皆の方を向く。
「うん、まぁ、大事なこと」
「勿体ぶらないで下さいよ。何なんです?」
達也が少しイラついた声で言う。これはまずい。彼を怒らせたらよくない。健は慌てて、
「単刀直入に言うと??絵里さんに、この探偵社に入ってもらおうと思ってね」
言った。ほう、へぇ、と言う声が上がる。
一番混乱しているのは、言われた本人??絵里の様だったが。
「え……えぇっ?」
「これはびっくりなのですー」
僕も驚き桃枝山椒枝、と妙なことを言いつつ、かずのこがお道化た。そしてそのままデスクチェアーにゆっくりと、謎の
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