第5話「汝に幸あれ」
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力だとか、そういう『体質』の類の一種だ。
名を、『幸運EX』??ただそこにいるだけで、運命に愛される体質。金銭、職業、色恋、籤運。凡そありとあらゆる『運』が絡む概念に関して、彼は本来ならば強要される『努力』の一切を無視して、誰もがうらやむ最上の結果を手に入れることができる。それもある程度のコントロールが可能であり、『最上』の形は彼が自由自在に変えることができるのだ。
例えば??絶対に当たるはずの銃弾を、万に一つの確率で、『偶然にも』避けることができるなら。
彼は、『絶対に』銃弾を避けるのだ。
何の技術も、努力もなしに。
健の銃撃は止まない。だが、その悉くは祐介ではなく、背後のコンクリートを打ち抜いていく。
やがて終わりは必ず来る。マガジンから銃弾が吐き出され尽くし、遂にトリガーを引いてもかちっ、かちっ、という間の抜けた音が聞こえるのみとなった。健の表情が初めて崩れる。
「ちっ……」
「終わりですか? じゃぁ、ここで死んでください??」
すっ、と。
祐介が、健の目の前に現れる。縮地、と呼ばれる、特殊な走行方法??剣術や剣道などの、近接戦闘武術の達人だけが身に着けることを許された、距離を圧縮する足遣い。長い努力と鍛錬を以て得ることができるはずのその技術を、彼は『偶然にも』全く努力することなく使えるのだ。
顔が近づく。この距離から逆転する手段。無いわけではない。健の異能である『Moon Light Fantasy』を利用すれば、遠くまで逃げることは可能だろう。幸いにして今は月が出ている。能力発動のトリガーはそろっていた。だが、そのためには一瞬の隙が必要だし、その間隙は、この状況で生み出すことは不可能に近い??
「……裏切者」
「……え?」
しかし。祐介は、健に向かって、ナイフや銃を突きつける、あるいはその肉体で打つ、と言ったことをしたわけではなかった。
「殺したいのはやまやまですよ。でも俺にも、知りたいことはある……貴方が……いいや、あんたがどうしてユミナ様を裏切ったのかだ。そして、どうしてあのヒトがあんたを赦しているのかだ。それを知るまで、あんたを殺すことはできない??教えろ」
「??それこそ、『好奇心は猫を殺す』、だぜ」
次の瞬間には、健は能力を発動させていた。空間が歪む。祐介が端正な顔を歪ませ、舌打ちをするのが聞こえる。
「じゃあね」
月に夢見る猫が映る??そんな錯覚の中。景色が、切り替わる。
探偵社の二階、健達のプライベートスペースへと。
「……好奇心は、猫を殺す、ねぇ」
健は苦笑して、鞄の中へと手を突っ込む。くしゃり、という感触。この事務所を出たときには、入っていなかったものだ。
「不用意なことは言うもんじゃ
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