第5話「汝に幸あれ」
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健は表情を崩す。不機嫌そうに。しかしどこか楽しそうに。祐介もまた、体勢を変える。次に何が来るか、やはり、『知っている』から。
「ちぇっ、詰まんないの」
??ガチャン、ダン。
軽い音。静かな銃声。サプレッサー付きの特注拳銃は、この狭い裏路地の中でもしっかりと音を殺してくれる。
健が銃を抜き放っていた。手元を見ないでのクイックドロウ。並大抵の人間ができることではない。それはその技術??いうなれば『殺しの技』を、徹底的に、いっそ反射的になるまでと言えるほどの期間、己の身に叩き込み続けた者だけが至れる境地。常人に対応することなど、不可能と言っていい。
しかし。
「俺からすれば、逆に不思議で仕方がないですよ。よりにもよって貴方が、あの女を守ろうとするなんて」
ほぼ無音に近い状態で、神速を以て放たれた、銃弾は、いたって自然な動作で祐介に避けられた。彼が不思議そうに小首をかしげるのとほぼ同時に、彼の顔の真横を銃弾がかすめたのだ。青年には、一切の被害なし。損害は、健が銃弾を一発、喪ったということだけ。
「……へぇ。マフィアからは、守っているように見えるのかい」
「ええ、まぁ」
祐介は笑う。健も笑う。どちらも、心の中では全く笑っていない。
「僕はただ知りたいだけさ。いまだにはっきりとは見えない、君たちの目的ってやつをね」
「『好奇心は猫を殺す』、って言葉、知ってますか」
「知ってるさ、勿論」
「俺は貴方の命を心配している」
「僕としては、君の命の方が心配なんだけど??ね?」
再び、撃つ。銃弾は最初から込められている。セミオートの拳銃は、最小限の動きで弾倉を再装填できる。そのための技術が、健の腕にはしみついているのだ。
そしてそれを回避するための技術も、とるべき行動も、何も知らないのにも関わらず。
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「……ちっ、やっぱりそれだけは好きになれないなぁ。君の異能」
「そうですか」
笑顔のまま、健は呻く。祐介は、表情を崩さない。健の背中に流れる、一筋の冷や汗。
祐介は、やはりごく自然に、ゆるりと、しかし確かに、銃撃を避けるのだ。
??幸運というものは、誰しもある程度は備えている。それが例えば小人族の黄金から得られた偽りのものであれ何であれ、幸運というものは、宿り手にある程度の繁栄を保証する。
そして同時に幸運は、宿り手に努力を強要する。幸運は努力した者のところにのみやってくる、とはよく言ったもので、運を引き寄せるためにはそれなりのお膳立てが必要なものだ。
黒木祐介の異能は、その『お膳立て』を超越する。
彼の持つ異能は、厳密には現代でいうところの『異能』ではない。もっと古い、それこそ魔眼だとか、超能
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