第7章 聖戦
第167話 ヴァレンタインの夜
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覚え、視線は何時も通りの無と言う表情を貼りつかせている彼女を見つめ続ける俺。
そう、普段の彼女が自分から何かをしようと言い出す事は少ない。大抵の場合、言葉を発する前に行動で示すか、それとも俺が気付くまでそのまま待ち続けるか、のどちらか。
もしかすると今この瞬間、俺の目の前に居たのは、今回の人生で常に俺の右側に在り続けたタバサと言う偽名を名乗る少女などではなく、前世で俺と共に育った――
「ジョ――」
前世での彼女の名前を口にしようとした俺。しかし、皆まで口にする事が出来ず、代わりに口の中から鼻に広がるカカオの芳醇な……と表現される香り。
反射的に閉じて仕舞った俺のくちびるを指で押さえ、小さく首を横に振るタバサ。その時、普段通りの彼女の表情が何故だかヤケに優しげに見えたのは果たして月明かりの所為だけなのだろうか。
口の中に想像よりもほろ苦い感覚が広がる。そう言えば彼女は、甘い物よりも少しビターテイストな味付けの方が好みだったか。
前世、そして今回の人生でもその部分に関してはあまり変わりがないのか。見た目や性格。それに表情が別人の如く変わって仕舞った今の彼女を見つめながら、その向こう側に見える以前の彼女の仕草や表情を思い出す俺。
そう、あの頃の彼女ならこう言う、少し悪戯に近いような事を……。俺に喋らせない為に、口の中に何か甘いお菓子を放り込むような真似は為したと思う。
そして、今と同じように俺のくちびるを指で押さえ――
今の彼女が絶対に浮かべない類の表情を浮かべて――
名前を呼ぶな、そう言う事なのか。確かに真名の関係があるので、彼女の前世の名前を呼ぶのはウカツ過ぎる行為となる。
ゆっくりと過ぎて行く時間。有希の元から旅立ってから何時間たったのか良く分からないが、それでも慌ただしかった一日の最後の部分を閉めるのに相応しい、落ち着いた静かな時間。
彼女手製のチョコレートをじっくり味わうように……。味覚的に言えば、未だお子様な俺には少し背伸びをしたかのような仄かな苦味が、口腔内でゆっくりと消費されて行く。
俺の瞳を覗き込むタバサ。瞳、髪の色は前世と同じ。しかし、前世の彼女と比べると明らかに幼い雰囲気。
そして――
「もし、わたしが国を亡びに導いた事がある。そう言ったら、貴方は信じてくれる?」
他国の軍隊を王都にまで招き入れ、それまで行っていなかった枢機卿を首相に登用。内戦により荒れた都の復興、運河の整備、豪華な宮殿の建設。
そして無謀な戦争の継続。
結果、放漫な財政によりわたしの治める国の民は重い税に苦しみ――
国を滅ぼした……タバサが?
俄かには信じられない話。しかし、その言葉の中には嘘を吐く人間が発する独特の陰の気と言うモノが感じられない以上、
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