第7章 聖戦
第167話 ヴァレンタインの夜
[2/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
そう、今の彼女がウソを吐いた事は間違いない。何故ならば、今、彼女が行ったのは単なる食事と言うか、失った霊気の補充の意味だけの行為ではないはずだから。
この血の抱擁は、彼女と……俺の血の交換。本来ならば彼女が俺の血液を得、そして俺が彼女の血を得る事によって初めて完結する契約の儀式。当然、契約の儀式である以上、双方の合意を必要とされるがその辺りは俺と彼女の間ではあまり問題はない。
おそらく、俺が夜の貴族に転化する事に対する危惧。その辺りが、彼女の血液を俺に与えない理由なのでしょう。
但し、それで何時までも誤魔化し切れるような物ではないはずなのだが。
……吸血姫が感じる血の乾きと言うモノは。
今彼女が感じて居る乾きは、単純に餓えや霊力不足から来る物ではない。彼女の中に存在している俺の血が更なる俺の血を呼んでいるから。……だと思うのだか。
そして、俺の中に居る。あの地球世界に追放される直前に、彼女から与えられた血が新たな血を。より多くの彼女自身の血を呼び続けているはずなのだが。
西洋風に表現するのなら天使が通り過ぎた瞬間。俺の方は、吸血姫と言う、人間とは少し違う特殊な存在たちに付いての知識の再確認の時間。
対して、タバサの方はと言うと……。
普段通り、少し上目使いでただ一途に俺を見つめ続けるタバサ。その瞳に浮かぶのは……。
視線が交わった瞬間、彼女の発して居る気配を細かく掴もうとする俺。
これは――
これはおそらく少しの疑問。そして同時に、何故か淡い期待のような物も感じさせている。
「何や?」
何か聞きたい事でもあるのか?
成るほど来る物が来たか。それまで自らの中でシミュレートして来た内容を頭の中に思い浮かべ、しかし、至極自然な雰囲気で。敢えて身構えないように心掛けながら問い掛ける俺。そもそも再召喚されてからここまで、二人きりになる時間などなかったのだから、二人きりになれば彼女から某かの問い掛けがあって当然だと思う。
それは――
少し逡巡するかのような気配。しかし、まるで意を決するかのような気を発し、小さく首肯くタバサ。
そして、
「何故、あなたは彼女を抱かなかったの?」
……と問い掛けて来た。その内容にしては、見事なまでに自らの感情を制御した冷静沈着な声で。
……と言うか、そっちですか?
「おいおい、そんな簡単な事も分からへんのか?」
てっきり、何故、帰って来て仕舞ったのか。そう、陰陽様々な感情の籠った問い掛けがなされる、と思いこんで居た為に少し肩すかしを喰らわされたような気分。
但し、それも一瞬。そもそも、この質問も当然想定していた。
「流石に他の女性を抱いた腕でタバサを抱き寄せる事は出来ない」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ