第69話<美保の旭日>
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
流れる涙。崩れるように敬礼を解いて、しきりに涙を拭う彼女に私は改めて言った。
「哀しくなくてもナ、人は……いや艦娘だって突然、涙が出ることもあるよ」
泣き笑いのような表情をする北上。
「そうなんだ。……だよね、やっぱ。へへっ」
照れ隠しのような、少し笑顔になった彼女を見て私もホッとした。
これを見ていた周りの艦娘たちが、一斉に私たちに向かって敬礼をし始めた。
遅れて来た赤城さんと日向、さらに呉と神戸。あの舞鶴までも皆、同様に私に向かって敬礼をした。それは共に戦った者たちの熱い想いか。
私も全員に向けて、ゆっくりと敬礼をした。
「ご苦労だった。そして改めて礼を言う。有り難う、みんな。よくやってくれた」
数名の艦娘は、北上同様泣き出している。それはこの場に居る皆の気持ちが一つにまとまったような一種、荘厳な瞬間だった。ああ、もし私が海軍の制服だったら、これはもう最高だったけどね。(残念ながら桃色作業服のままです)
私が敬礼を解くと祥高さんが合図をして言った。
「では各自、指示を出します。班長さんはこちらに集まってください」
その後、祥高さんと大淀さんで班ごとに指示を出した。まずは戦闘直後の湾内の整理。それから主に阿武隈が破壊した地上設備の片付けだ。指示に従って各自、黙々と配置へ就く。
空は徐々に明るくなりつつある。水色の諧調を背景に白い雲がいくつか浮かんでいるのが見え始めた。それまでの重苦しい夜風から一転して爽やかな早朝の風が香り始める。
「朝か……」
「朝ですね」
あの白い深海棲艦については、言葉は交わさなくても、その場に居た全員が、お互いに通じる世界があったように思う。ひとつの区切りは、ついたようだな。
「ホラそこ、気をつけて!」
港湾内に響く声。川内が先陣を切って湾内を走り回って駆逐艦娘たちに指示を出している。
「どこまで元気なんだ? あいつは」
夜戦とは違うけど……まあ良いか。本人がやる気満々なら。
腕を組んだ舞鶴が私の隣で湾内を見ながら言う。
「今の港湾内は戦場並みに危険な作業だからな」
「それは同感だが」
遅れて阿武隈と浮上した伊168も上がってきた。祥高さんが促すと彼女は私に頭を下げた。
「司令、スミマセンでした」
申し訳なさそうな阿武隈だが戦闘で若干、顔の黒墨が落ちていて、どう見てもパンダにしか見えない。
「う……」
「……」
現に他の参謀たちは笑いを堪えて悶絶している。
私は彼女に言った。
「分かった。報告は後から聞くから……早く顔を洗え!」
「はぁい」
軽く敬礼した後、彼女たちは祥高さんと司令部へ向かった。彼女らについては恐らく軍令部から着任の指令書が着ているのだろう。あとで確認しなきゃ。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ