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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十四話 イゼルローンにて(その4)
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お立場が困ったことにならないかと案じているのです」
オフレッサーは一瞬だけリューネブルクを見た。そして“そうか……”と呟くとまたヴァレンシュタインを見た。
リューネブルクの言うとおりだ。ヴァレンシュタインを返したとなれば必ずそれをとがめる人間が出るだろう。やはりヴァレンシュタインは殺すべきだったのだ。後味は悪いかもしれない、しかし殺すべきだった……。
そして敵を追うべきなのだ、多分敵はもう撤収しているだろう。だが敵を追ったという事実が残る。このままではヴァレンシュタインを逃がし、侵入してきた敵も逃がしたことになる……。
追うべきなのだ、ヴァレンシュタインの姿が見える。追えば間に合う、オフレッサーは望んでいない様だが進言すべきだろう……、リューネブルクも賛成してくれるはずだ。傍に行くか、そう思った時だった……。
「……装甲擲弾兵は己の身体を武器として敵と戦う。トマホークを構えた敵と向き合う恐怖は言葉には表せん……。その恐怖を押し殺して敵と戦う……、臆病者には出来んことだ。俺は装甲擲弾兵こそ勇者の中の勇者だと思っている……」
「……」
オフレッサーが前を見ながら話し始めた、低く呟くように……。リューネブルクはそんなオフレッサーの横顔を見ている。そして俺は何となく傍に行けず黙って二人を見ていた。
「だが軍のエリート参謀や貴族達の中には俺達を野蛮人、人殺しと蔑む人間もいる……。口惜しいことだとは思わんか?」
「それは……」
リューネブルクが口籠り溜息を吐いた。内心忸怩たるものが有った。俺もその一人だ、装甲擲弾兵の重要性は理解しても何処かで野蛮だと、時代遅れだと蔑んでいた。
「俺達は野蛮人でも人殺しでもない、帝国を守る軍人であり武人(もののふ)なのだ。だからその誇りと矜持を失ってはならん。それを失えば装甲擲弾兵はただの人殺しに、野蛮人になってしまう……」
「……」
リューネブルクがオフレッサーの言葉に頷いている。リューネブルクも装甲擲弾兵だ、オフレッサーの言葉に感じるものが有るのだろう。
「あの男は死を覚悟して負傷者を運んで来た。それを殺せばどうなる? 武勲欲しさにヴァレンシュタインを殺した、恨みに狂ってあの男を殺したと言われるだろう。それではただの人殺しだ……。俺は装甲擲弾兵総監だ、装甲擲弾兵の名誉を汚す様な事は出来ん……」
そう言うとオフレッサーは太い息を吐いた。
名誉を汚す、その言葉が胸に響いた。俺はあの男を殺すべきだと思った。だがオフレッサーは殺すべきではないと考えた。何故殺すべきだと考えた? 武勲か? 恨みか? それとも恐怖か……。
あの時、確かに俺はヴァレンシュタインを怖いと思った。恐怖から殺そうとしたのか? だとすれば俺は何とも情けない男だ。これから先一生後悔しながら生きる事に
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