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たが困難でね、それでもある日、ある組織から通知が来て、妻の末路を教えてもらったよ」
空虚な表情がすべてを語っていた。内戦で碌でもない死に方をして、爆撃で粉々になって、いつ死んだかも分からないで故郷の土に帰れたならまだ幸せで、辛い、苦しい死が待っていて、生まれてきたのが間違いだったと思わされる非業の死、それがカリーニンの妻にも息子にも降り掛かっている。
「別れた妻は、侵攻してきた共産軍に陵辱され、西側の外貨を得る方法がある売春婦として始末され、広場で高い場所に吊るされた」
子供もなくし、困窮し尽くした別れた妻からの惨めな手紙に答え、ドルや紙くずのようなルーブル紙幣、郵便局で盗まれて届かない食料を送ったと思われるカリーニン。
それこそが外資で体を売った売女として、妻を殺してしまったのだと教えられ、カナメも新たな嘔吐感に襲われた。
「私たちは平和に暮らしていた。朝の六時にラジオから国歌が流れ、貧しくても、配給がなくてもだ。息子を亡くし、妻と別れ出国して傭兵となるまでは、贅沢な食事も商品が尽きないスーパーマーケットも見たことが無かった。ブラウン管テレビも見れなかった、それでも、それでも内戦までは幸せだったんだ」
涙を流し、静かに語りかけてくるカリーニン。結論を出すのは急がれなかったが、自分や両親が核の炎に焼かれずに済み、今聞いた全ての悲劇が無かったになるなら、自分自身が生まれて来なくても良いとまで思った。
ウィスパード全員が生まれて来ず、テッサもレナードも存在せず、ソースケと会わずにいたとしてもそれは悲劇ですら無い。最初から居ないのだから。
「カリーニンさん」
「済まない、感情的になってしまった。この地獄を続けるか、全く違った歴史を送った世界に生きるか、どのような世界にするかは君が決めてくれ、それでは失礼する」
感情が抑えられなくなったカリーニンは、静かに退出してドアを閉めた。
自分にカリーニンのようなことが起これば、世界を呪って消してしまうだろう。核の炎が全世界に降り注ぎ、呪われた人類がこの世に存在しないよう、人間達が望んだ「誰も生きていけない世界」をプレゼントしてやろうと思う。
それでも一瞬、自分が切ってやったボサボサ髪、目だけがギラギラ光るような精悍な少年、その思いだけが一瞬よぎり、サイードも死なず、子供の頃の砂漠の仲間達も失わないで、幸せな人生を送らせてやりたいとも思った。
「サイードって誰だっけ?」
カナメの体と胃袋に、休息が必要だった。まだ昼だが昼食は食べられそうにない。
ベッドに横になったカナメは、目を閉じて休息した。
眠っている間にも、無駄な情報が流れ込んでくる。クリアランス、清掃、浄化、アメリカ大陸で行われた民族浄化、インディアンと呼ばれた人々の終わり。天然痘の毛布をプレゼントされ、家族
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