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ULTRASEVEN AX 〜太正櫻と赤き血潮の戦士〜
3-3 ジンと大神
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次の日からも、大神の未だ諦めきれない希望とは裏腹に、帝劇での仕事はこの日もあった。
この日の舞台のため、大神はジンと共にモギリの仕事に勤しんでいた。後でかすみたちから頼まれている伝票整理も、ジンに付き添われる形で手伝うことになっている。
「すみれさんは今日も素敵な演技を見せてくださるでしょうね」
「そうね。私今回で5回目よ」
耳を済ませると、今回もまた行われるすみれとマリア主演の『椿姫の夕』を、何度も見て、今回もまた見に来たという人たちの声が聞こえてくる。
「あたしは、奏組の人たちの演奏も聞きたくて…」
「マリアさんもかっこよくて素敵だけど、あの人たちもなかなかのハンサム揃いよね」
中にはこんな意見もあった。大神も奏組と呼ばれる団体のことは少し聞いている。どうやら演奏を担当している人たちらしく、大半が容姿端麗な男性で占められているらしい。
「はい、ありがとうございます。そのまままっすぐあちらの扉へお進みください」
大神はちらっと、向かい側のジンを見やる。彼は常に笑顔を保ちながら、客から差し出された切符を切って返し、通していく。初日と比べて自分も切符を切れるようになってきて、今日も今のところ自分の切符切りの腕に文句を言う人はいない。
これで本当にいいのか?俺はこんなところで、暢気にモギリをやっている場合なのか?だが自分は軍人、命令には逆らうべきじゃない。だがこうして切符を切って雑用ばかり。そんな答えの見えない自問自答ばかりを繰り返す。
「おいおい、兄ちゃん。手が止まってるぜ」
「え?」
ついボーっと一人思案していたところを、声をかけられて顔を上げる。そこには先日のあのギャング三人組が並んでいた。
「あちらさんの兄さんを見てみろよ。今のあんたと違って、笑顔にあふれている。ほかの客さんたちも、あの人の笑顔に釣られて笑顔になってる」
ボスの男が、先日の不機嫌さと違い、年上の余裕さと寛容さを備えながら大神に言った。
「いいかい、ここは劇場なんだ。日々の苦労を忘れ楽しむためのワンダーランドなんだ。夢の入り口で、んな陰気な顔するもんじゃないぜ?」
言われてみて、大神は確かに…と彼らから強い説得力を感じた。
その後、少しの間なぜか笑顔の浮かべ方をご教授された大神だった。

笑顔…結局頑張ってもこの日は心がこもりきっていない愛想笑いしか浮かべられなかった。
ボスからは「しっかり笑顔を作れるようになれよ」と励ましの言葉を送られたのだが、今の彼には心から笑うことが難しかった。
さらにはかすみや由里の事務仕事、さらにすみれの買い物の手伝いだのなんだの…モギリに限らずただの雑用係だ。
国のため、そこに生きる人々を守るために戦うはずだった自分が、劇場のモギリ。長年望んでいた軍人としての道から一転して公共施設の一般職員に成り下がったのだ。
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